転職の経験がほとんどなく、長年同じ会社で働いてきた40代の中には、以下のようなコンプレックスを持っている人も多いでしょう。
こういった不安を持つ40代のビジネスパーソンは、単純に「新しいスキル」や「自分への自信」が得られれば、転職を難なく進められると考えがちです。
もちろん、そういった側面はあるものの、企業は決して専門的なスキルだけを重視して採用活動を行っているわけではありません。
履歴書に書けるような資格を持っていなかったとしても、現職で働いて培った経験そのものが貴重なアピールポイントになることは、転職市場において珍しくありません。
転職エージェントに登録後、キャリアアドバイザーと今後のキャリアについて相談する中で、自分の新たな魅力に気付くこともあります。
にもかかわらず、転職活動がうまくいかないと、求職者の中には転職をあきらめたり、難易度が低いと思われる企業への転職を希望したりする人が出てきます。
厳しい言い方をすれば、本気で戦う前から「自分に負けている」のです。
しかし、そういった精神的傾向をつかみ、本来の希望を忘れずに活動するための方法を知ることができれば、転職活動における自分の弱点の克服につながります。
この記事では「転職したいけどスキルがない・自信がない」問題に悩む40代が、なぜスキルがないと思ってしまうのか・なぜ自信を失いやすいのかを解説した上で、とっておきの武器となる問題解決方法をご紹介します。
スキルという単語は、ビジネスシーン・転職市場など、様々な場面において幅広い意味で用いられています。
広い意味では、業界・職種の「未経験者」か「経験者」かで区分されることも、スキルの一種として分類されるでしょう。
業界・職種ともに未経験でも採用されやすい20代とは違い、40代は総合的な能力が問われるため、自分の得意分野といえるキャリアをアピールできなければ、転職は厳しいものになるでしょう。
ただ、公的資格・民間資格などの「スキル」だけがキャリアになるわけではなく、例えば業界内でも特にニッチな経験・大規模なマネジメント経験などが重宝されることもあります。
企業がどんな人材を求めているのかによって、何が「スキル」として評価されるのかは変わってきます。
まずは、この幅広い意味合いを持つ単語「スキル」について、ビジネスシーン・転職市場ではどのように解釈されているのか、細かい部分まで紐解いていきましょう。
スキルとは英語で「skill」とつづり、本来は「教養・訓練を通して獲得した能力」のことを指します。
もう少し分かりやすい表現にすると、社内外でトレーニング・勉強により身に付けた技術・能力のことを、ビジネスパーソンは一般的にスキルと呼ぶ傾向にあります。
スキルという単語が持つ意味合いがとても広いため、どのようなものまでスキルに含められるのか、イメージしにくい部分は否めません。
ただ、逆に考えれば、自分が「これはスキルだ」と思えば自由にアピールできることになりますから、解釈の仕方次第ではたくさんのスキルを生み出せる可能性があります。
実際「○○スキル」という単語はたくさんあって、どれが・どの職場で・どのように有効なのかを定義するのは難しい部分があります。
例えば、経理職の「○○スキル」についてまとめると、あまり知られていないものも含めれば以下のようなものがあげられます。
経理職と聞くと、単純に数字に強いイメージを持つ人は多いかもしれませんが、基本的に経理の仕事は単独で完結することがない(個人事業主などを除く)ため、正社員でない人と適切な関係性を保つことも含め、多くの人と仕事上のつながりを保たなければなりません。
給与計算であれば人事との連携が求められますし、経費精算は各部署とのやり取りが必須です。
また、経理職は転職組も少なからず存在しているため、会計上の共通ルールだけで仕事ができると考える人もいるのですが、それだけで仕事ができると認められることはありません。
どの企業にも「社内ルール(企業内でしか通用しないルール)」というものがあり、それをいち早く吸収・応用できなければ、残念ながら戦力とは認められないのです。
このように、職務を掘り下げていくと「これってスキルなの?」というものが色々と見つかります。
逆に、自分だけでスキルを掘り下げようとしても、本当にそれがスキルと言えるのかどうか思い悩んでしまい、結局「自分には大したスキルがない」という自己評価を下してしまうのです。
キャリアアドバイザーなどに今後の戦略を相談する場合、自分がスキルと自覚していないものをどれだけあげられるかが、転職活動の成功率を高めることにつながります。
スキルを語る上で押さえておくべきポイントとして、知識とスキルの違いがあります。
ここは勘違いしやすい部分なので、自分のスキルを確認する際は、以下の違いを正しく認識しておきましょう。
もう少しかみ砕くと、知識は頭で覚えているもの・スキルは身体で覚えているものと考えると、分かりやすいかもしれません。
知識だけではスキルとしてアピールすることはできませんし、逆に知識がなければスキルも生まれないのです。
一例として、自動車免許を取得する場合の、知識とスキルの違いについて考えてみましょう。
自動車免許を取得する際、多くの人は自動車学校に入学して、学科・技能教習を受けます。
学科教習は「自動車を運転する際の法令・マナー・ルール」などを学ぶために用意されていますが、技能教習では「運転するための技術」を、実際に自動車を運転して学びます。
自動車を安全に運転するためには、交通標識や公道における進行の優先順位などを頭で覚えていなければ、円滑に運転できず歩行者などにも迷惑をかけてしまうかもしれません。
しかし、それらの知識が頭に入っているだけでは、実際にアクセル・ブレーキ・ハンドルをどのように操作すべきなのか、身体を使ってイメージすることはできません。
ビジネスシーンでも同様で、知識として頭に入っているだけでは役にたたないものを、スキルと呼ぶことはありません。
職場で「実際にアウトプットできるものだけ」がスキルとして認められることをあらかじめ押さえておいた上で、自分にどのようなスキルがあるのかを確認することが大切です。
ビジネスパーソンに要求されるスキルの種類は多岐にわたり、そのすべてを備えなければ転職できないということはありません。
ただ、どんな業界・職種で働くとしても持っておきたいスキルというものは、以下の通りいくつか存在しています。
これらに加えて、業界・職種に特化したテクニカルスキルが求められますが、テクニカルスキルをそれほど重視しない職場もあります。
また、40代以降にマネジメント経験を求める企業は少なくありませんが、求人情報の応募条件で求める「マネジメント」の意味合いによって、部下の指導経験なのか店舗の運営・管理経験なのかが変わってきます。
よって、せっかくスキルをアピールしようと思っても、自分が保有しているスキル・企業が求めているスキルがうまくマッチングしないと、採用にはつながりません。
ビジネス上重要なスキルほど、企業によって解釈が異なりますから、応募する前に企業側がどんな意味合いでそのスキルを求めているのか、事前に確認することが大切です。
先ほどご紹介した3種類のスキルは、確かに企業によってイメージするレベルは異なるのですが、一般的にどういったスキルを意味するのか理解しておくと、スキルの選別をスムーズに進めることができます。
以下に、それぞれのスキルが意味するものについて、概要・特徴などをご紹介します。
ポータブルスキルとは、業種・職種が変わっても「持ち運びができる能力」のことを言います。
大きく分けると「仕事のし方」と「人との関わり方」に分類され、以下の通り細かく分類されます。
※出典元:「コンサルティング技法開発等の実施・平成26年度キャリアチェンジのための汎用的スキルの把握方法の検討及びキャリア「厚生労働省委託事業
ポータブルスキルは、40代が転職を志す場合にまずアピールしなければならない部分で、おそらく多くの人が現職で培っているスキルと言えます。
それだけに、徹底的に掘り下げようとすると、情報量の多さから手に負えなくなるため、現職で取り組んでいる業務をベースに少しずつ掘り下げていくことが大切です。
「仕事のし方」についてまとめるポイントは、得意だと自負しているものだけでなく、周囲から評価されたことも含めた「エピソード」から得意分野を洗い出すことです。
営業の分野であれば、1対1の交渉なら絶対に負けない交渉力、顧客の要望に即したソリューションを提案できる提案力などを、具体的なエピソードとともにアピールできれば、それがポータブルスキルとなります。
また「人との関わり方」については、上司⇔部下軸だけでなく、社内⇔社外軸で考えることもできます。
例えば、子育てと仕事を両立した経験があるなら、その対応力・管理力をアピールする方法もあります。
ポータブルスキルは、人生をベースに能力をイメージすれば、自分だけのスキルがたくさん見つかります。
あとはそれを「○○力」という表現にまで落とし込めれば、堂々と職務経歴書に書くことができるでしょう。
ポータブルスキルにおける「人との関わり方」と似たような部分があるものの、マネジメントスキルに関しては意味合いが広いため、ポータブルスキルと別枠で考えておくとよいでしょう。
具体的には「何らかの対象物を管理するスキル」のことを指し、その対象物には以下のようなものがあげられます。
ポータブルスキルとしての「人との関わり方」は、基本的にヒトに特化しており、間接的に組織がからむスキルが対象となります。
これに対して、アルバイト・パートスタッフのシフト管理における対象物は「ヒト+時間+組織」となりますし、資金繰りについては「カネ+事業+時間」となるでしょう。
つまり、単独ではなく複数の対象物を管理するスキルが「マネジメントスキル」であり、その範囲は企業・業種・職種によりけりです。
そのため、自分が現職・前職で何を対象として管理していたのかによって、アピールできるマネジメントスキルが変わってきます。
一口にマネジメントといっても、これだけ業務の内容に幅があります。
また、自分がどこまで業務に関わっていたのかによって、職務経歴書に書ける範囲も違うでしょう。
ざっくり「部下の育成に携わった」というニュアンスでマネジメントスキルをとらえていると、求人情報を正しく読み解くことができない場合があります。
マネジメントスキルをアピールする際は、対象物をベースに自分のスキルを可視化することが大切です。
プログラマー・SEなどを除いて、極端に高度なスキルが要求されるとは限りませんが、キャリアによってはそこまでITスキルを磨く機会がなかったという人もいます。
ただ、業務でパソコンを使う機会が全国的に増えてきているのは事実で、厚生労働省の調査によると、平成20年の時点でコンピュータ機器を使用している事業所の割合は97.0%となっており、ほとんどの業種で日常的にコンピュータは使われています。
そのため、年齢にかかわらずWord・Excel・PowerPoint・各種メールソフトの基本操作は要求されますから、誰から説明を受けずとも操作できるレベルのスキルは最低限備えておきましょう。
また、役職者候補として採用される場合を想定し、基本的なビジネス文書の書き方を再確認しておくことも大切です。
関連記事:転職の自己分析が苦手な人へ。自分の長所・短所・スキルを丸裸にする方法
社会人経験が長くなり、年齢を重ねるにつれて、転職の難易度が上がっていくように感じる人は多いと思います。
自分が働きたい職種の求人情報をチェックするたびに条件を満たせず、残念な気持ちを抱えたまま転職活動を続けていると、次第に苦痛度が増していくものです。
ただ、40代だからハイクラスばかりを狙うべきかというと、決してそのようなことはありません。
「40代=エグゼクティブ案件が主体」というイメージは、必ずしも転職市場の現況に当てはまる話ではないからです。
年齢不問で新しい人材を募集している企業も数多く存在していますし、ポータブルスキルは自分のキャリアを分析する過程で自然と見出せます。
転職したいけど自信がない・仕事が見つからないかもしれないという気持ちは、求職者の単なる思い込みかもしれないのです。
2021年時点における40代は、1972~1981年生まれが該当します。
そして、バブル崩壊後に起こった就職氷河期は、概ね1993~2005年頃までの期間が該当します。
この頃から、新卒者の就職難が社会問題となりました。
そのため、適職探し・キャリアプラン構築などといった悠長なことは言っていられず、誰もがとりあえず生活するための仕事を見つけるのに集中していました。
その結果、非正規雇用以外の道を選ぶことができず、今でも大変な思いをしている人は少なくありません。
厳しい環境の中でようやく見つけた仕事を手放す勇気が出ず、転職に向けて行動を起こせるほどの自信がなくなってしまったとしても、時代背景を考えれば自然なことだと言えるでしょう。
しかし、よく考えてみると、それはあくまでも環境の問題であって、自分の問題ではないことに気付けます。
何はともあれ、今生きているということは、自分がそれだけ努力してきたということなのです。
生きる努力を、スキルや自信の有無だけで否定する必要はありません。
自分の人生にとって転職が必要だと思うなら、周囲や自分の評価はともかく、まずは理想に向けて歩みを進めることが大切です。
何かを考えているとき、そこには必ず「考える理由」があります。
自信がないこと・転職に踏み切れないことに悩んでいるのも同様であり、理由を掘り下げれば「なぜそう思うのか」の答えが見えてきます。
転職したいけど自信がないと考えている人にとって、もっとも悪い考え方は、漠然とした不安から転職を控えるという考え方です。
転職するにせよしないにせよ、自分なりに出した答えから人生を決断するスタンスがなければ、いつまでも堂々巡りで時間を無駄にしてしまいます。
株式会社リクルートの調査によると、自らの意思で転職・独立・異動・出向・副業等を経験している人、望まないキャリアチェンジでも変化を機に自分の道を自覚した人ほど、仕事もプライベートも充実しているという傾向が見られたそうです。
また、主体的にキャリアを決断している人とそうでない人との違いをとらえる上で、重要な「3つの壁」が存在していることも紹介されています。
以下に、転職に向けてアクティブに行動するために自覚すべき3つの壁についてご紹介するとともに、それぞれの乗り越え方についても考察します。
将来のことを考えたとき、このままではいけないと漠然とした不安を抱えている人が乗り越えなければならない壁が、自信の壁です。
株式会社リクルートの調査によると、自分のキャリアに関心があっても具体的な行動を起こせない人は、主に以下のような理由から転職活動を控えていることが分かります。
※出典元:Vol.3:能力や経験に自信がないのは、本当の自分を知らないから?【40代・50代・60代を阻む「自信の壁」の攻略法】
結果を見る限り、専門知識・資格が不足しているという自覚から転職を控える人は一定数存在していますが、それ以上に重要なのが「分からない」という回答が多い点です。
転職にあたり、どんな求人サイト・転職エージェントを選べばよいのか分からない、あるいは現職で培ってきたビジネススキルが他の職場で通用するかどうか分からないなど、不安の本質をとらえきれていない回答が目立ちます。
この壁を乗り越えるためには、やはり分からないことをどれだけ調べられるかが、自信につながっていくでしょう。
特に、自分の価値を現職で実感したことがない人は、一度キャリアの棚卸を行い、本当に役に立てている分野がないかどうかチェックを入れてみて欲しいと思います。
仮に、新卒からずっと同じ場所で働いてきたのなら、その年数で「同じことばかりを消化する毎日」というケースは少ないはずです。
今までの会社員人生の中で、イレギュラーケースへの対応も含め、自分が取り組んできたことを文章化することから始めましょう。
続いては、現在の自分に一定の自信はあるものの、このまま同じ職場で働くことに不安を感じている人が乗り越えなければならない「展望の壁」についてです。
同じく株式会社リクルートの調査によると、展望の壁を乗り越えられない人は、以下のような理由から転職を控えていることが分かります。
※出典元:Vol.3:能力や経験に自信がないのは、本当の自分を知らないから?【40代・50代・60代を阻む「自信の壁」の攻略法】
自分の不安と向き合ってキャリアを棚卸しても、それだけでは転職活動を進める動機としては弱いものです。
人間には「現状維持バイアス」という心理的傾向があり、無意識のうちに考えや行動が損失を回避する方向に傾いてしまうため、環境を変えることに不安を感じてしまうのは当然のことです。
しかし、ただ「環境を変えること」に対する漠然とした不安だけで新しい道を閉ざしてしまうのは、可能性を自分から放棄しているのと同じことです。
他の理由である「行動をするための時間がない」もそうですが、何らかの行動を起こそうとする動機がまだ不十分であるものと推察されます。
この壁を乗り越えるためには、自信の壁と同じく、転職のモチベーションを高めるための情報収集が必要です。
ただし、キャリアの棚卸に時間をかけるのではなく、転職エージェント探しに時間をかけるべきです。
転職のメリット・自分のキャリアの評価について、客観的な立場からアドバイスしてもらうことが、転職を決断する際の後押しになるはずです。
他には、近しい人・知人のアドバイスなど、現職とは違う仕事のやり方・価値観に触れることも有効です。
関連記事:転職がこんなにつらいとは……悩みを相談できない40代が知るべき脳科学
最後に、自分のキャリアに相応の自信があり、あえて今行動する必要性を感じていない人が乗り越えるべき「行動の壁」についてです。
以下の調査結果の通り、他の2つの壁に悩んでいる人とは違った傾向が見て取れます。
※出典元:Vol.3:能力や経験に自信がないのは、本当の自分を知らないから?【40代・50代・60代を阻む「自信の壁」の攻略法】
これらの結果を見る限り、良い意味で「現状維持」にメリットを感じていると言えます。
どちらかというと、転職よりも、社内における環境変化を想定して仕事をしている傾向にあるのかもしれません。
この壁を乗り越えるには、そもそも「壁を乗り越える意義」について、当人が再考する必要があるでしょう。
どんな働き方・生き方が自分の理想形なのか、会社を離れてイメージするのがポイントです。
過去に現職で不満を感じた時、それをどうやって乗り越えてきたのかを考えつつ、新しい環境であればどんな働き方・生き方ができるのかに当てはめていけば、自然と転職の動機が生まれます。
もちろん、その過程でやはり「現職でなければ成し得ないこと」に気付けたなら、あえて転職を検討する必要はありません。
ちなみに、転職ではなく独立のケースですが、筆者は行動の壁を乗り越えるにあたり「副業」を「本業」にできたことが一因となっています。
副業を始めてから、やがて「副業の収入だけで生活できるかもしれない」と思った時、心拍数が一気に上がったのを覚えています。
もちろん不安もありましたが、筆者にとっては「組織で働くこと」そのものが限界だったのではないか、という自己分析もあったことから、開業届を出したときは自分でも驚くほど落ち着いていました。
誰もが独立を検討する必要はありませんが、副業など、社外において自分が目に見える実績を何らかの形で出すことも、間接的に転職への道筋をつけることに役立ってくれることでしょう。
関連記事:40代・50代こそ「鶏口牛後」で新しいビジネスストーリーを作れ!
転職に対しての自信をつけるには、どうして自信がないのかを考えるための材料が必要です。
自分が持つリソース・転職することで得られるかもしれないメリット・転職後の自分が考えなければならないことなど、一つひとつ不安要素をつぶす情報を得ることによって、転職への不安が薄れていくことでしょう。
不安要素をつぶすリサーチを実現するためには、何事も「そもそも論」で考えるのが有効に働きます。
どうして自分が不安なのか・どうして自分が転職しないのかを根本的にとらえ直すことで、新しい発見があります。
・自分の実力に自信がない
→そもそも、自分の実力とはどのようなものなのか分かっているか
・自分の将来に不安がある
→そもそも、不安な将来とはどのようなものかイメージできているか
・自分が転職した後のイメージがわかない
→そもそも、本気で転職したいと思う動機はあるのか
このように、ネガティブな考えが頭に浮かんだ段階で、その根本的な理由を考えるクセをつけておけば、漫然と悩みを抱える時間は少なくなるはずです。
その上で、自分が欲しい答えにつながる情報を、キャリアアップ・転職論など幅広い観点から集めてみましょう。
ここまで、主に思考をまとめる観点から「転職したいけどスキルがない・自信がない」問題の解決策をご紹介してきました。
しかし、思考を変えるだけでは、行動を変化させるには不十分です。
そこで、自分の思考だけでなく、自分の行動を分析するための方法として「行動分析学」のノウハウを取り入れることをおすすめします。
今回は、法政大学文学部心理学科の教授・島宗理さんの著書『パフォーマンス・マネジメント-問題解決のための行動分析学-』より、個人が抱える問題を行動分析学によって解決する方法をご紹介します。
島宗さんは著書の中で、仕事や人間関係がうまくいかないとき、人はその原因を他人・自分の性格・能力・やる気・適性のせいにして、問題解決のためのアクションをとらないことが多いと指摘しています。
これを「個人攻撃の罠」といい、転職のケースでも似たようなケースが見受けられます。
例えば、自信のなさの根拠が分からず転職に悩んでいる人は、仕事上での問題は解決しようと試みることができたとしても、自信のなさを解消しようという発想には至っていないため、それが転職できない根本的な理由となっています。
厳しい言い方をすれば、そこには何の分析・改善行為もなく、ただ「漠然とした自信のなさ」を自分のせいにして放っておくスタンスによって、状況を先延ばししているだけです。
ただ、誰もが似たような傾向を持っているため、そのような状況から視点を変えてやることで、新しい方向を向くことができるようになります。
そのためには、自分がどうして現在のような行動をとっているのか、その理由を知ることが大切です。
島宗さんは、わたしたちが個人攻撃の罠に陥らないようにするための行動指針について、以下のように述べています。
仕事や人間関係がうまくいかないときには、他人や自分を責めるのではなく、問題を解決する方法を考えよう
※出典元:パフォーマンス・マネジメント-問題解決のための行動分析学-
ビジネス・プライベート問わず、その方向性で物事を考えることはとても大切ですが、具体的なロジックが分からなければ、対策を立てることができません。
そこで、行動心理学では「行動の原理」を理解することで、どうすれば望ましい行動を続けられるのかを考えていきます。
以下に、書籍で紹介されている、基本的な行動の原理をいくつかご紹介します。
強化の原理とは「行動することで何か良いことが起こったり、悪いことがなくなったりすると、その行動は繰り返される」というものです。
また、行動を強化する何らかの良いことは「好子(こうし)」と呼ばれ、美味しいビールや食べ物・他者からの嬉しいリアクションなどが該当します。
弱化の原理とは「行動することで何か悪いことが起こったり、良いことがなくなったりすると、その行動は繰り返されなくなる」というものです。
また、行動を弱化する何らかの悪いことは「嫌子(けんし)」と呼ばれ、美味しくない食べ物・飲み物を口に入れたことや、他者から非難されるようなリアクションを受けたときなどが該当します。
復帰の原理とは「行動は弱化されないと、元通りに起こりやすくなる」というものです。
例えば、親にテレビゲームをやめるよう注意を受けて遊ぶのをやめた後、親がいなくなってから再びテレビゲームをして遊ぶケースが該当します。
消去の原理とは「行動は強化されないと、元通りに起こりにくくなる」というものです。
例えば、勉強の結果テストの成績がよかったものの、親や周囲から評価されず、次第に成績を気にしなくなってしまうケースが該当します。
行動心理学では、原理だけでなく「行動随伴性」という概念も重要になります。
行動随伴性とは、何らかの行動とその直後の状況の変化との関係をいい、詳しく理解するためには以下の3つの概念を理解する必要があります。
著書の中では、居酒屋でビールを注文した場合について、それぞれの概念を以下のように当てはめています。
この一連の流れには「強化の原理」が働いており、その後も居酒屋にいる間は主人と目を合わせて注文を繰り返すことが予想されます。
こういった行動随伴性を分析することを「ABC分析」といいます。
名前の由来は、英語のA(Antecedent)・B(Behavior)・C(Consequence)からきており、もちろんこの分析方法は他の原理を当てはめて考えることもできます。
転職活動に応用する場合、自分が考えていることではなく、自分がどんな場面で・どう行動して・どんな結果につながったのかを分析することが大切です。
もし、転職について考えるたびにスキルのなさ、自信のなさにさいなまれているなら、以下のような行動随伴性が成立しているものと考えられます。
この例では、悪い結果ばかりが自分の頭の中にインプットされ、次第に転職への自信がなくなる「弱化の原理」が働くことが予想されます。
しかし、このような行動を定期的に行っているということは、何らかの形で「強化の原理」が働いているとも考えられます。
これらのことから推察されるのは、転職サイトを見て落ち込みつつも、やはり現在の状況を何らかの形で変えたいという矛盾が、良い行動の弱化・悪い行動の強化を繰り返しており、不毛な時間を過ごす原因になっていることです。
行動分析学を転職活動に応用する際に必要なのは、まずこのような点に気付くことであり、そこから自分にとってマイナスな行動をどうやって弱化し、プラスな行動をどう強化するかを考えていきます。
ここからは、著書の内容を踏まえた上で、具体的にどう行動随伴性を分析し、良い行動を強化すべきかについて、できるだけ分かりやすい例をとって考えていきます。
まず、弱化の原理は「今やっていることをしない・させない」ために行うものなので、基本的に長続きしません。
先生に怒られても、先生がいなければ悪いことをやってしまうように、悪い行動を「しない!」という明確な・ポジティブな理由が自分の中に生まれなければ、悪いことをしないように心がけるだけでは限界があります。
よって、転職に向けて前向きに考えを進めることを継続するためには、強化の原理をいかにして日々の行動に取り入れるかが重要になります。
そのためには、普段の生活で自分が当たり前に行っていること・自信があることを思い浮かべて、その先行条件を転職活動に応用するのです。
以下の例で考えてみましょう。
この例では、経理職のメンバーとして働いている社員が、自分の仕事を終えたケースを想定しています。
これを転職活動に当てはめるにあたり、先行条件・行動・結果の内側にある自分の心理を紐解いていきます。
このように、早めに月次決算の仕事を終わらせる理由を考えていくと、
ため、慣れていても早回しで仕事を終わらせようとする心理が見えてきます。
そこで、こういった「先回しするメリット」について、転職活動の先行条件に盛り込むことを試みます。
先の段落でご紹介した例に、もう一度戻って考えてみましょう。
この例の中に「次の○○の負担を軽くできるメリットがある」というポイントを盛り込んで、それを満たす先行条件を考えてみましょう。
ここでは「転職活動の負担や悩みを軽くできるメリット」を想定して、以下のような先行条件を用意してみます。
転職サイトを見て思うような結果につながっていない状況を鑑み、そこから一歩踏み込んで、転職エージェントで情報収集を検討する先行条件を設定します。
そこで、キャリアアドバイザーに相談したケースの行動と結果について考えてみましょう。
このように、行動にともなう結果に、具体性が生まれたことに気付けると思います。
もちろん、マイナスの結果につながることもありますが、それを覚悟の上で行動を変えると、自分のニーズに合った先行条件・行動・結果を導き出しやすくなるはずです。
転職に悩んでいる人は、あなたの貴重な時間を悩むためだけに使わないために、ぜひ行動分析学という武器を自分のものにして、転職市場に勇んで戦いに出て欲しいと思います。
関連記事:転職活動のスタートダッシュ!動けない自分を「すぐに」動かすための方法
自分が考える根拠だけでなく、自分が行動する根拠も押さえておくと、転職活動に対する不安は日に日に少なくなっていきます。
自分を責めるだけでは、暗い未来が待っているだけですから、スキル・自信のなさをなげくよりも「今の自分がどうなりたくて、そのために何ができるのか」を考えた方が建設的です。
行動分析学は、時として頭の中だけで終わってしまいがちな分析を、実際に起こした行動の結果として評価できる点に、活用のメリットがあります。
結局のところ、スキルは自分で定義できますし、自信は情報収集や行動で身に付けることができますから、まずは無意味な個人攻撃の罠から抜け出すことが大切です。
どんな人でも、今まで必死に生きてきた以上、絶対に何か誇れるものがあるはずです。
それを可視化できた時、あなただけの転職への自信が生まれます。