サラリーマン生活の折り返し地点にあたる40代が転職を志すとき、それは人生の重要な選択の一つとなります。
希望通りの条件の企業に転職できれば、今までに経験したことがない世界が広がるかもしれませんが、まったく期待外れの職場となってしまったら、残りの人生の数十年間を棒に振ることになるのです。
40代の転職活動には、これからの人生を見据えた戦略的な判断・行動が求められます。
そのためには、それぞれの優先順位について考えを巡らし、何が自分にとって「おいしい」選択肢なのか見極める必要があります。
優先順位を決めるにあたり大切なことは、転職の「軸」と「ポイント」について理解を深めることです。
この記事では、40代の転職・人生における優先順位のつけ方について解説します。
20代・30代の場合、入社前の社会人経験が比較的浅いこともあって、転職の成功・失敗を決める分かりやすい指標があります。
具体的には、仕事のやりがいだったり、年収増だったりします。
しかし、40代以降になると、想定年収も頭打ちになりますし、役職者のイスも限られてきます。
そのような中で自己実現を図るためには、企業に応募する段階で、何を重視するかあらかじめ決めておいた方が効率的です。
プライベートなことも含め、自分の価値観を明確にした上で転職活動を行うと、面接時の逆質問で聞きたいことをまとめやすくなりますから、満足度の高い転職につながります。
まずは、自分なりに転職の「軸」を定めた上で、応募先を決めましょう。
転職にあたり、軸となる候補には、以下のようなものがあります。
これらの中から、重視する要素をいくつか取り上げ、軸に据えて判断します。
軸とするものは、自分が重視するものなら数は問いませんが、多すぎると一貫性のない結果になるおそれがあります。
一例として【業務/仕事内容】と【会社の経営方針/社風】を取り上げた場合を考えてみましょう。
仮に、経理職として転職する場合にA社からD社の4社を候補としたときは、マトリクスを使って以下のようにまとめます。
これらの情報は、転職サイトの求人情報から紐解いたり、転職エージェントからもらう情報をもとに検討したりするのが基本戦略となるでしょう。
もちろん、対比するのにふさわしい別の軸があれば、そちらを使っても問題ありません。
先に候補としてあげた軸の種類ですが、この中から重要と思われる軸を選ぶためには、転職における優先順位を自分なりに決めていかなければなりません。
ただ、何を優先するかは自分の中にしか答えがないため、転職先に対する希望を掘り下げて考える必要があります。
例えば、自分が以下のような希望を転職先に持っているとします。
この条件を満たす求人情報を探す、あるいは転職エージェントに質問・相談するのは、見つかるかどうかは別にして、行動を起こすこと自体は決して難しいことではありません。
ただ、このレベルでは掘り下げ方が十分とは言えません。
年収・業種・職種は、過去の自分のキャリアから妥当なものを選択すると思いますが、それが「本当に自分のやりたいことなのか」を整理してから転職しないと、後々になって後悔するおそれがあります。
よくよく考えてみると、正社員にこだわらず出社日数が少ない環境の方が希望通りの働き方ができるかもしれませんし、業種も情報通信業にとらわれない方が可能性を増やせるかもしれません。
重要なのは、新しい職場に何かを望むスタンスではなく、新しい職場で働いて「自分がどんな暮らし・生き方ができるのか」を明らかにすることです。
誰かの意見に共感することも大切ですが、世間の目を気にせず自分本位で物事を進める度胸も、転職を成功させるためには重要です。
自分に合った転職の軸を選ぶためには、仕事に対する優先順位を、ライフプランに当てはめながらイメージするのが効果的です。
より広い視野から優先順位をイメージしようとすると、必ずしも転職だけが正解というわけではなく、退職後に独立や副業を選ぶことも選択肢の一つだと気付くかもしれません。
転職以外の選択肢も含めて検討すると、転職以外にも軸に合う働き方があるかどうか、考える機会が生まれます。
もちろん、本当に副業が成功するか、独立できるような状況が成立するのかについては、慎重に判断しなければなりません。
そこで、新しい転職の軸を選ぶ場合は、以下のポイントを押さえておきましょう。
良い仕事は、経済状況の改善や周囲の評価・自己実現につながります。
ある仕事に従事したとして、その後自分がどうなっていたいのかをイメージすることは、社会人としてとても自然なことです。
ただ、40代以降になると、現実離れした理想を追うのは難しくなります。
人生の残り時間を計算しながら、その中で最善の選択肢を選ぶ必要性に迫られるからです。
そうなると、単純に「役職者になる」とか「年収を1,000万円にする」といった条件が陳腐な目的であることは、容易に想像できるでしょう。
転職先で役職者になりどんな働き方を目指すのか、年収が1,000万円になってどんな未来を残りの人生で描くのか、そこまで考えてこそイメージと呼べるものになります。
さらに言えば、万一その選択肢で自分の理想が達成できなかった場合のプラン、すなわちプランBにあたるものも用意しておきたいところです。
40代以降の転職は、20代・30代以上に「先々の失敗も想定した、最終的な人生の成功イメージ」を膨らませる必要があるのです。
世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマーとして知られ、数々の伝説を残した梅原大吾さんは、勝負に負けることについて以下のようにメリットを語っています。
人間って、負けることで変化を強要されるんですよね。負けることで変わることを強いられる。そのプロセスを通してこそ、「自分は成長しているな」っていう実感が得られるんだと思います。
引用元:“286連勝”したプロゲーマー「ウメハラ」が明かす勝負哲学――高く飛ぶためには深くしゃがめ
早い人でなら20代で引退してしまうプロゲーマーの世界で、長年現役として戦い続ける人だからこそ、変化に対応することの重要性を深く理解しているものと推察されます。
どんなに情報収集を徹底しても、どんなに採用に向けて努力をしても、自分にとって完璧な職場と出会うのは難しいものです。
経営者が追い求めるのは利益であって、社員の生活を第一に考えられるかどうかは、企業の経営状況や経営陣のモラルに左右されるからです。
また、社風の事前確認は、あくまでも社員の平均的な性格・性質をチェックする意味では重要ですが、鵜呑みにできるものでもありません。
よって、先輩社員全員と相性が良い状況は考えにくく、何らかの形で社内政治に巻き込まれれば、理想を叶えることは難しくなるでしょう。
そんな状況に備えて、転職以外・あるいは転職後のリスクヘッジを考えておくことは、転職後の人生を有利にしてくれます。
現職での実力に自信があり、取引先と個人的な付き合いもあるのなら、独立という選択肢が生まれます。
定時で退社でき、帰宅後に時間が余っているなら、その時間を副業に充てることもできるはずです。
転職後の生活が思っていた通りに進まなかった場合に備えて、ある程度選択肢を増やしておき、小規模な取り組みから始めてみましょう。
転職軸を選ぶにあたり、自分の希望を明確にしておくことは大切ですが、新天地で何を実現したいのか上手くイメージできない人もいるでしょう。
その際、やりたいこととは逆の観点から判断すると、スムーズに転職軸が選べる場合があります。
就業環境を軸にする場合を例にとると、単純に「家から近い」・「転勤がない」・「リモートワークが認められる」など、希望する条件の中から取捨選択する方法があります。
しかし、逆に「残業はできない」・「フレックス勤務でないと嫌だ」・「副業不可は除外」など、働くにあたって嫌な条件を省いて考えることも一手です。
ポイントは、物事を自分基準で考えることです。
周囲・社会の意見をニュースなどで頭に入れてしまうと、人はどうしてもそれらの情報に引っ張られてしまいます。
年収はその最たる例で、年収増で幸せになれる額には上限があることが研究結果で明らかになっているにもかかわらず、残念ながら多くの人が年収増に希望を抱くものです。
しかし、冷静に考えてみると、本当にその年収が自分の幸せを保証してくれるかどうかは分かりません。
収入が増えても貯金がなければ、何か大きな支出が発生した際に、結局お金を借りる羽目になるわけですから。
あくまでも、自分の人生をより良いものにするために、転職という手段を採用していることを忘れないようにしたいものです。
転職を志し、どの転職軸を採用しようか考えながら絞り切れない場面に遭遇している人は、そもそも自分の人生に「何を求めているか」・「何を望んでいるか」が不明瞭である可能性があります。
つまるところ、転職は人生を方向転換させる手段の一つなので、転職に向けた優先順位が決められないなら、先に人生の優先順位について考えてみることをおすすめします。
以下に、人生の優先順位を決める際、押さえておきたいポイントをいくつかご紹介します。
終身雇用制度が一般的だった時代が長い日本人は、知らず知らずのうちに「学校・会社という狭い社会でロールモデルを見つける」ことを要求されてきました。
その結果、より生きやすい生き方・環境を探して適応しようと試みる考え方の人は増えたものの、社会そのものをより良い方向へと変革するリーダーは少なくなっているように筆者は思います。
例えば、内閣府は指導的地位に立つ女性の割合を増やそうと努力していますが、その成果は芳しいものとは言えません。
世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、日本の総合スコアは0.656、順位は156ヶ国中120位と低いもので、先進国の中では最下位となっています。
日本社会の閉鎖性・男尊女卑の歴史が長いことなど、その理由は多くの識者が指摘していますが、政治参画のジェンダー・ギャップ指数は100点満点で6点という評価ですから、これはもはや日本国民全員の潜在意識に根付いた問題と言えそうです。
情報を分析して適応するのは得意でも、そこから一歩抜けて改革に向けた行動を起こすこと・その動きを支持することは、日本人には苦手なのかもしれません。
そんな日本だからこそ、これだけは「自分の頭で考えて決断した」という意識を持っていることは、今後のキャリア構築・転職活動に有効活用できます。
現在一緒にいるパートナーと恋愛結婚したなら、そこには決定的な理由があったはずですし、プロポーズの言葉も工夫したことでしょう。
車を買ったこと・引越したこと・誰かとケンカしたことなど、自分の人生の分岐点における決断には、それなりの理由があるはずです。
自分が何に気付いて決断したのか。 自分が何を好んで決断したのか。 自分が何を嫌って決断したのか。 自分が何を心配して決断したのか。
こういった、自分の性格に関することを掘り下げていくと、企業の検討に役立ちます。
具体的には、職場に快適性を求めるのか・バリューを求めるのか・安定性を求めるのかなど、自分の価値観に沿って応募先を選別しやすくなるはずです。
「100%自分の意志で何かを決断した」という自覚を持つことは、会社員として働いていると難しいかもしれません。
つまるところ、最終的に就職先・転職先を決めているのは自分自身なので、そこで自分の身の回りに起こることはすべて自分に責任があるわけですが、転職を決めるということは少なからず現職に不満があるわけですから、転職者の心のどこかに他責的な感情・意見が生まれている点は否めないでしょう。
ただ、就転職先を決めた背景には、何らかの目的があって他の企業を蹴った(蹴られた)理由があるはずです。
決断にあたり、何を大事にしたかったのか・何を手に入れたかったのかを掘り下げて考えてみると、新たな決断のための参考情報となるでしょう。
あなたが今まで生きてきた人生の道のりは、あなたの価値観・判断基準を紐解くカギになります。
逆に、アドバイザーや同僚・友人など、他者の考えを取り入れた決断ばかりしてきたことがあらわになったなら、今度こそ自分の頭で考えて転職先を決めて欲しいと思います。
転職という重大な決断をした以上、そこには我慢ならないこと・手に入れなければならないものがあったはずです。
少なくとも、希望する収入・待遇・条件が前職では手に入らないと考えたからこそ、転職を決断したのではないでしょうか。
食事・趣味・睡眠など、一見ありきたりな希望に思えるものでも、掘り下げて考えれば人生を充実させる重要な要素となり得ます。
例えば、以下のような優先順位の基準が考えられます。
人生を充実させるために必要なものは、その人の希望により変わってきます。
現段階ではお金の優先順位が高くても、将来的には時間や健康にリソースを費やすことが重要になるかもしれません。
人生の優先順位は、その時々のタイミングにより変わってきます。
ただ、そこに明快な自分の意志があったなら、転職軸の優先順位にも応用できるはずです。
転職の優先順位をつける手順は、まずは判断基準となる軸を決めることから始まります。
ただ、すぐに軸を決められるとは限りませんから、より高い視座から転職先を検討するにあたり、自分の人生の優先順位を知っておくと効率的です。
注意点として、普段当たり前に自分事として決断していることが「本当に自分の頭で考えた結果なのかどうか」は、自問自答しておく必要があるでしょう。
仕事選びにおいて、自分が大切にしている観点を把握することは、後悔のない転職につながるはずです。
あなたの人生の決定権は、あなたにあります。
転職前に、自分が何を大切にしているのか、あらためて考える時間を作ることをおすすめします。
・選択の自由を無駄にしない!幸福感は他者との比較ではなく「自分の選択」が決める
・ 転職後に「後悔しかない」人生を過ごす理由と、つらい時期を乗り越える方法
参考書籍: