これまで何度か転職を経験した人も、これから初めて転職を始めようと考えている人も、転職について自分なりに考えた結果、現在の職場を離れるという結論を出しているものと思います。
しかし、よくよく考えると動機があいまいなケースというのは、意外と多かったりします。
面接官は、時に応募者の斜め上をいく観点から質問を繰り出してきます。
転職市場で使い古された表現だけを駆使しても、面接官の高評価を勝ち取ることはできません。
志望動機の中に自分だけのオリジナリティを含めて回答するには、なぜ自分が転職するのか、一般的な動機の型にはまらないレベルまで理由を分解することが大切です。
この記事では、志望動機や転職理由を考える際に役立つ、自分が考えている理由の「分解方法」についてお伝えします。
20代で転職する場合、志望動機のオリジナリティ以上にポテンシャルが求められるため、培ってきたキャリア以外の要素から採用に至るケースも十分考えられます。
しかし、応募者が30代・40代となるにつれて、面接官は「わざわざ自社を選んで転職を希望する人物」の考えや生き方・仕事ぶりなどを多方面から評価したいと考えるようになります。
よって、転職理由を複数の視点から読み解かれることを想定して、応募者は志望動機・転職理由を構成する必要があります。
まずは、面接官が志望動機から応募者の考えを紐解くプロセスについて、かんたんに解説します。
面接官が志望動機から何を読み取ろうとしているのかは、採用予定の職種や応募者の年齢など様々なファクターがからむため、一概に答えをまとめることはできません。
ただ、概ね共通しているのは、以下の要素を確認するためです。
応募者を採用するにあたり、極力ミスマッチを避けたいと考えている面接官は、性格やスキルなどを総合的に見て判断する傾向にあります。
よって、志望動機や自己PRのように応募者の主観が混じる項目だけでなく、職務経歴書の情報や転職エージェントの推薦状なども確認した上で、応募者をふるいにかけることでしょう。
しかしながら、自社にかける熱意の強さ・自分を客観的に見つめた上での判断によって自社を選んだ応募者に対して、面接官はなるべく真剣に検討したいと考えています。
だからこそ、転職理由・志望動機をブラッシュアップすることは、書類選考・面接の成功率を高めるのに重要です。
志望動機は、ともすれば抽象的な表現で終わってしまうことも多く、人によっては受け答えのスピードを早めるため、あえて単純明快な回答を用意することもあります。
しかし、そういった気遣いは、かえって「他の会社でも同じ理由を述べているのではないか?」と面接官に誤解される可能性があります。
単純明快に志望動機をまとめることは、応募者自身のバックボーンを十分に説明できず、結果的に評価を下げることにつながります。
時間がかかってしまうことも想定しつつ、自分が面接官に対して必ず伝えたいことは、明確に差別化して志望動機に加えましょう。
転職理由・志望動機は、それがどれだけ的を射ているもの・社会通念上に照らし合わせて妥当であると考えられるものであっても、前職を貶めるような形で構成するのはNGとなります。
極端な話、残業時間が長く上司の叱責が非人道的なものであったとしても、原則としてそのことは志望動機に書き加えてはならないと考えるべきです。
もちろん、話の流れで本音を聞かれるなど、隠し通すべきでないと判断した場合は、面接官に詳細を伝えることも一手ではあります。
しかし、それを志望動機という形で「武器」のようにまとめてしまうと、面接官は将来的に自社も同様に評価されるのではないかと勘ぐるでしょう。
また、職務経歴書に書かれているからといって、志望動機に具体的な事情を盛り込まないのもマイナスポイントになります。
例えば、過去の職場では自分のスキルを活かせないと考えて転職活動をスタートさせたのなら、どの部分が活かせないと感じたのか、エピソードも添えて説明した方が、面接官としても状況をイメージしやすくなります。
志望動機は、伝え方次第で面接官の心象を大きく左右します。
ベースとなるのは自分自身の考えですが、それを面接官側・企業側の文脈で理解してもらえるよう工夫が必要です。
志望動機が明確でないまま転職活動に臨むと、転職に失敗するリスクは高くなります。
また、もともと自分が用意した志望動機が、自分の本当の気持ちや考えを十分に反映していないケースも考えられます。
自他ともに納得できる転職理由・志望動機を構築するためには、自分がどうして転職するのか、表面上の理由を掘り下げて考える手法が有効です。
以下に、転職理由・志望動機の掘り下げに役立つ観点をいくつかご紹介します。
これから新しい職場への転職を決意して、転職先の情報を収集し、自分の目的を達成しつつ応募企業にも貢献できると自己評価できたとします。
通常の転職活動であれば、ここから応募書類の作成に進むわけですが、ここで一度立ち止まって以下のことを考えてみてください。
前職では家電メーカーの開発部で勤めていたとして、そこから中小企業へ移動することを考えたとします。
そこで、自分で考えた転職理由として、
「前職では他部署の兼ね合いから、自分たちのチームに回してもらえる予算に上限があった。応募先企業では開発分野に力を注いでいるとのことだったので、自分のアイデアを活かしてもらえるのではないかと考えた」
上記のような方向性でまとめようと考えていたとします。
具体的な情報を詰めていけば、転職理由としてはまとまると思います。
しかし、応募者自身の希望を深く掘り下げて考えると、
こういった疑問が浮かんでくると思います。
いったんまとまった転職理由に疑問を持ち、そこから掘り下げて自分の希望や応募先のニーズを考えることで、より深い観点から志望動機を固めることができます。
例えば「自分は家電開発ではなく、どちらかというとIoT開発に興味があるのかもしれない」など、これまで考えていた方向性が変わることもありますから、できるだけ掘り下げて考える時間を確保するようにしましょう。
次に重要なのは、現職と応募先の差異を明確にすることです。
自分がなぜ応募先を選んだのかを踏まえ、それぞれの差異を明確にできれば、志望動機に反映させる際に役立ちます。
自分が「現職を辞めざるを得なかった」と判断するハードルが高いほど、面接官から共感してもらえる可能性が高くなります。
また、面接官に「辞めたのは致し方ない」と判断してもらうためには、志望動機に一貫性を持たせることも重要です。
やや極端ではありますが、以下のような志望動機であれば、一定の評価は得られると考えてよいでしょう。
現職では営業事務を担当しているが、一部の業務に経理分野が含まれている都合上、独学で日商簿記1級を取得した。資格を活かしたいと考えているが、現職では正直なところオーバースペックであり、経理分野での貢献は見込めないため、未経験者を年齢問わず受け入れている御社を志望した。
これまでOA機器販売の分野で歩合給の営業を担当していたが、新型コロナ禍の影響からニーズが激減し収入も減少した。これまでの営業スタイルを活かしつつ、同水準での歩合給で働ける職場を探していたところ、複合機等の提案営業に関する求人情報を拝見し、御社に応募させていただいた。
自分のスキルを活かしたいと考えているものの、現職ではどうしてもそれができない。
これまで培ってきた能力に対する、正当な報酬がもらえるところで働きたい。
こういった事情を具体的に・一貫性を保って伝えることが、理想的な志望動機の構築につながります。
異業種・異職種への越境転職を視野に入れている場合は、上記に加えて前職との共通項を志望動機に書き加えるとよいでしょう。
例えば、バックオフィスのスキルは企業共通のポータブルスキルが多いので、その点を前面に出していきます。
具体的には、経理職から人事職への転職を行う場合、労務分野(給与計算等)での実務経験があるなど、経理職と人事職で類似性のある仕事を経験したことをアピールしていきます。
理想的なのは、そこから経理(または人事)に興味を持って転職を希望した、というニュアンスで志望動機を構成する形です。
業種の場合、自動車ディーラーの営業職から中古車買取業への転職を例にとると、主に取り扱う商品に「新車」・「中古車」という違いはあるものの、自動車業界に関わっていることに変わりはありません。
「現職ではどちらかというと中古車を売る機会の方が多く、中古車買取の分野に興味を持った」などと説明すれば、応募先も理解を示してくれるでしょう。
もちろん、これはあくまでも共通項を探る際のプロセスであり、オリジナリティを付与しなければ志望動機として認められません。
自分がこれから目指す業種・職種について、どんな共通項があるのかを探った上で、貢献できる分野を絞り志望動機を作成しましょう。
自分が転職する理由をしっかり掘り下げるためには、
など、今回の転職について自分が考えていることを書き出していくと、自分が思ってもみない方向で転職をとらえられるようになります。
これからご紹介する「カルテ・クセジュ」という技法は、複数のテーマから自分が学びたいこと・実現したいことなどを洗い出すのに便利ですから、転職理由の掘り下げに使えるはずです。
なお、今回ご紹介する情報は、読書猿さんの書籍「独学大全」の中で紹介されているものを、転職用にアレンジしたものです。
より詳しい技法をご覧になりたい方は、独学大全をご一読ください。
ポジティブ・ネガティブを問わず、本音ベースで自分が今転職について考えていることを、まずは思いつくままに書き出してみましょう。
書き出す際は、可能な限り各項目同士の距離を開けておくことで、気になったことを色々と書き込めるようになります。
次に、自分が書いた項目を一通り読み返して、現時点で転職に希望する要素を四角で囲みます。
今回は、
といった要素を洗い出してみました。
次は、Webリサーチなどの方法を使って、四角で囲んだ理由について「自分はなぜこのような理由で転職を考えているのか」を掘り下げて、転職理由の重要度を確認します。
掘り下げるプロセスの中で、新しい要素が浮かんだ場合は、それも書き足してOKです。
また、今回取り上げた要素に対しては、以下のような形でリサーチを試みたとします。
複数のリサーチを経て、どうやら自分が転職で解決したいことは、
この3つが主であると判断できた、とします。
そこで、上記3つの要素を太線の四角で囲みます。
手順③までの流れを終えたら、再度情報をチェックして、それぞれの項目同士につながりがあるかどうか確認します。
転職理由として、それぞれの項目に関連性があるかどうかをチェックするようなイメージです。
線を結ぶ際は、四角で囲んだもの以外も含めて問題ありません。
また、新たに気になった項目が生まれたら、再度前の手順に戻ってリサーチをかけても構いません。
例の中では、収入が上がらない理由として、副業ができる時間がないことと関連性があると判断しています。
また、副業ができる時間がないのは、職場が自宅から遠いことと関連性があるとも判断しています。
ただ、このようにまとめると、単純に「職場が自宅から近ければ転職先はどこでもよい」という判断をしていることになります。
本当にその判断で問題がないのか、一つひとつの理由をより深く掘り下げる必要がありそうです。
自分が転職する理由の重要度が見えてきたら、今度はその理由が妥当なものであるか、気になるものを赤の四角で囲みます。
また、その妥当性についても詳しく書き出していきます。
収入が上がらない理由について自分なりに考察した結果、今回の例では、
などが転職を検討している理由だと分かってきました。
また、副業を検討している理由についても、
ことが転職を希望する背景にあると分かってきました。
複数の観点から転職を希望する理由を洗い出すと、現職で正当に評価されていないことが、副業への興味や転職につながっているものと推察されます。
よって、まだ本格的な興味にはつながっていないものの、「収入が上がらない」の項目から「正当に評価されたい」の項目に向けて赤色の矢印を書き込みます。
掘り下げる中で、自分が取得している資格や過去の実績についても、何らかの形で転職に活かしたいと考えた場合、さらに「勉強したことを活かしたい」にも赤矢印を書き加えることになるでしょう。
このように、自分が転職理由として各項目にどのくらい思い入れがあるのかを判断しながら、関連性のある項目を増やしていきます。
複数の理由と、それぞれの関連性を矢印で追っていくうちに、例では「リモートワークに対応していない」ことにも注目しています。
自分が過去に提案したWeb会議システムの導入が、現職で認められていないことが遠因となり、収入増に至らないことの不満や副業への興味につながったものと、思考のベクトルに変化が生じています。
そこから、取得した資格との関連性も含め、
など、リモートワークを営業で行うことの重要性やメリットを提案できる仕事に、自分が興味を持っているのではないかと、例の中では見当をつけています。
最終的には、転職理由として、
といった動機を見出しています。
このように、一つひとつの理由を掘り下げると、当初は気付けなかった自分の不満や会社に対する問題点などに気付けます。
カルテ・クセジュの作業は、手順①~⑥までの流れを一巡しただけで終わるわけではありません。
一度まとまった内容を、次の日になってよく読み返してみると、まったく違う理由が浮かんでくることは珍しくないからです。
また、実際に転職活動を行った際に、自分が希望していたニュアンスとの違いや、先方とのミスマッチに気付けたケースもあるでしょう。
そういった情報は逐一カルテに書き加え、不要な情報は削除しつつ、改良を続けることが大切です。
転職理由を考える場合、複数の理由をあげた上で、理由を構成する要素を分解して考えることが、納得感のある転職理由に気付くことにつながります。
表面的な転職理由だけをベースに転職活動を続けても、自分が本当に働きたい環境を探し出すのは大変ですし、オリジナリティのある志望動機を考えることも難しいはずです。
今回ご紹介した「カルテ・クセジュ」を活用すれば、自分が思ってもみなかった転職理由を掘り当てることができるでしょう。
あなたはなぜ転職するのか、その問いに対する答えは、慎重かつ入念に考えるべきです。