日本でもベストセラーになった書籍『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』では、仕事における人の行動傾向について、以下の3タイプに分けて考えています。
また、書籍の中では、調査の結果もっともポジション・給与が高かったのはギバーであると紹介されています。
このことから、新しい職場に転職して大きく評価される人物は、ギバーの傾向が強いものと推察されます。
とはいえ、行動傾向はすぐに修正できるものではありませんし、あえて狙ってギバーになれるようなノウハウに意味があるとは限りません。
この記事では、転職活動という観点から、ギバー・テイカー・マッチャーの立場の違いについて解説します。
まずは、ギバー・テイカー・マッチャーの3者について、それぞれの特徴をご紹介します。
書籍の中では比較的分かりやすく分類されていますが、一口にギバーがいい人、テイカーが悪い人という発想で考えないよう注意したいところです。
ギバーとは、他者に惜しみなく与えられるタイプの人のことを指し、基本的に見返りを考えずに手を差し伸べる性質があります。
そのため、職場では多くのものを人と分かち合い、自分が役に立てそうだと感じたら手を差し伸べます。
分かち合うものは、時間・パワー・アイデア・人脈など様々ですが、その根底に「これをすれば相手からも何かしてもらえる」ことを期待する精神がなく、行動の意図は「give&given(与えるか・与えられるか)」によって決まります。
よって、ギバーは競争社会の中では希少な存在とも言えますが、逆にギバーが一人もいない社会を想像してみると、絶望的な雰囲気がただよいます。
現代の無機質的な社会にとっては、ギバーは貴重であり、宗教家に似た気高ささえ感じられるかもしれません。
ただ、ギバーのタイプは以下の2種類に分かれており、一概に他者中心の生き方をしているとは言えない部分があります。
自己犠牲型のギバーとは、他者の幸せ・利益といったものには興味があるものの、自分の利益に関しては無頓着であり、人に与えると自分が損をしてしまうタイプと言えます。
自分の利益を犠牲にして誰かに尽くすため、自分は何も得られないまま、やがては力を失ってしまいます。
そのため、最底辺の環境で生活にさえ苦しんでいる人は、ギバータイプというケースは多く見られます。
善人であるがゆえに搾取されるという、これまでの人類の歴史で繰り返されてきた悲劇でもあります。
ただ、純粋なギバーと呼べる人も確かにこの世には存在していて、いわゆる聖職者・聖人と呼ばれる人がこれにあたります。
とはいえ、ビジネスパーソンが目指すべき目標とは言えないため、自己犠牲型の傾向がある人は現状を改善する必要があるでしょう。
自己犠牲型とは異なるタイプのギバーとして、他者思考型があげられます。
他者思考型は、他者の利益と自分の利益の両方に関心があり、他者に対して多くを与えながらも、最終的に自分も他者から何らかの形で還元されるタイプです。
自分が誰かを助けたら、その誰かが別の誰かを助けるという、良い人間関係の循環を作ることが可能な人と言えるでしょう。
また、自分から得ようとするだけの人間からは距離を置けるため、自分にとって必要なお金・パワーまで失ってしまうような状況にはなりにくいはずです。
テイカーは、常に自分が与えるよりも多くのものを受け取ろうと行動するタイプの人を指します。
とにかく自分にとって有益な判断を優先し、接する相手が望むことよりも自分の利益を第一に考えますから、行動の意図は「take&taken(取るか取られるか)」によって決まります。
このように説明すると、テイカーとはいわゆる「悪人」と認識する人は多いかもしれませんが、一概にそうとは言い切れません。
確かに、純粋なテイカーについて考えると、窃盗や強盗などを行う犯罪者がイメージされますが、当人の社会に対する認識次第では、競争社会を生き抜くため「テイカーにならざるを得ない」と考える人がいるのは自然だからです。
また、仕事の現場ではテイカーの仮面をかぶっていても、プライベートでは必ずしも同じような性格とは限りません。
これまで自己犠牲型ギバーだった人が、何かのきっかけでテイカーになってしまうことも十分考えられるため、あくまでも分類のひとつとしてとらえておき、イメージをデフォルメしないよう注意しましょう。
ギバーとテイカーの中間に位置するタイプがマッチャーで、何事もバランスを取ろうとするタイプです。
誰かから与えられたなら与え、何かしてもらったら恩を返そうとします。
親切心というよりは「義理を通す」感覚に近く、自分の行動の損益を意識して行動するようなニュアンスです。
よって、自分に何か悪いことをされたら仕返しを試みるなど、中立的な思考・行動をします。
ただ、人間関係の中で純粋なマッチャーを探すのもまた難しく、テイカーの中には時と場合によってギバー的な行動をする人もいるでしょうし、その逆もいるはずです。
そういった人間関係のバランスの中で成り立っているのがマッチャーなのであり、ギバー・テイカー・マッチャーの3者関係は流動しているものと考えられます。
ギバー・テイカー・マッチャーの3タイプについてご紹介したところで、続いては転職という場面でこの3タイプがどう評価されるか考えてみましょう。
社風や職種・スキルにも左右される部分はありますが、転職後に活躍する人材という目線で判断すると、自ずと答えが見えてきます。
他者の利益を考慮して行動できるギバーは、どの職場でも重宝される存在です。
自分の実力について正しく自己分析できているギバーなら、自分を組織でどう活かせるのか考えて自己PR等を構築するはずですから、自然と評価もされやすくなるはずです。
ただ、たくさんの人が働く環境では、ギバーは時にそのスキルを悪用されるリスクがあります。
特に、与えるよりも得たいと考える傾向にあるテイカーが、ギバーの性質を見抜いてそのスキルや時間を活用しようとした場合、ギバーは多大なストレスやダメージを受けることでしょう。
その一方で、自分が受けた恩やメリットには報いようとするマッチャーや、お互いに他者の利益を意識して行動できるギバーとの連携は、良いものになることが期待できます。
よって、面接等で応募者の性質がギバーであると見抜けた採用担当者は、能力が企業の求める水準に達している限り、その応募者を自社で採用したいと考える可能性は高いと言えそうです。
とはいえ、後述しますが、ギバーとはノウハウやスキルで成立する話ではないので、面接している相手がギバーであるかどうかをその場で見極めるのは面接官にとっても難しいものです。
応募者の立場として面接対策を考えるなら、とりあえずギバーであることをアピールするよりは、自分の中にあるテイカーとしての傾向を抑える努力が必要かもしれません。
転職市場においてテイカーが評価を得られるとしたら、応募先に自分の経歴・スキルを魅力的に伝えられたケースなどが該当するでしょう。
競争社会の中で「自分が他者よりも上である」ことを何とかしてアピールしようとするのがテイカーの性質なので、周囲に自分を良く見せるためのテクニックを知っていて、その結果として転職の成功率を高められたとしても、何ら不思議ではありません。
実際、働き始めて最初のうちは、テイカーの心象は良いはずです。
転職して間もない頃は、誰でも自分が基本的に「与えられる側」にならざるを得ないので、与える側も抵抗なくやり取りができるのです。
しかし、テイカーは「自分が誰かに与える」立場になった場合でも、基本的には自分が得になることを想定して動きます。
具体的には、新しくできた部下の手柄を自分が横取りしたり、逆に自分のミスを周囲の責任にしようとしたりするかもしれません。
当然ながら、こういった状況が続いてしまうと、周囲から多くの人が離れていきます。
その結果、会社の経営や職場の人間関係に問題が生じてしまい、その原因が自社のテイカーにあると分かった段階で、テイカーは閑職に回される・もしくは退職を検討せざるを得ない状況に追い込まれる可能性が出てくるのです。
公平な観点から仕事をこなすマッチャーは、組織を適正に運営する上で必要な存在です。
ギバーとテイカーだけでは、職場の理想的なバランスはとれませんし、テイカー同士では前向きなやり取りが期待できないからです。
企業が100%テイカーを排除することは、秩序を保つ上で理想的ではありますが、現実的ではありません。
マッチャーがオフィスで機能すると、自社のテイカーが悪い働きをしないよう見張ってくれる効果が期待できますし、ギバーの働きを正当に評価してくれることでしょう。
しかし、仮に職場にマッチャーのスタッフしかいないとしても、経営陣がギバーであるならば、スタッフは与えたものに報いる形で仕事をしてくれるはずです。
逆に、経営陣がテイカーなら、スタッフからとんでもないしっぺ返しを食らうおそれがあります。
このように、マッチャーにはプラスとマイナスの面があり、企業にとっては雇用する一定のメリットもあります。
これまでの行いを振り返って「自分はギバーではないと思うが、テイカーでもない」と感じている人は、あえて公平さをアピールするのも一手かもしれません。
ギバー・テイカー・マッチャーという3タイプを比較した際、やはり企業として欲しい人材のタイプはギバーだと考えられます。
しかし、応募者が「自分にはギバーの傾向がある」と自覚してアピールすることは、何らかのスキルによって成立する話ではありません。
そもそもギバーとは、ノウハウを意味する単語ではなく、言わばその人の「価値観」を表すものです。
続いては、ギバーという価値観について、より深く掘り下げていきましょう。
日本人の国民性は、時に外国人の驚きや感嘆を生む一因となります。
東日本大震災の際は、自分の生活や生命が危うい場面であっても、秩序を失わずに行動できるメンタリティが各種メディアで称賛されました。
ビジネスでも、売り手・買い手だけでなく社会のことを考えて活動する「三方良し」という考え方が知られており、古くから日本には「世のため人のため」働く習慣が根付いていたことが分かります。
残念ながら、自分の利益だけを考えて行動する心ない日本人も一定数存在していますが、そういった人物は基本的に軽蔑・非難の対象となることは疑いなく、日本国内で表だってテイカーの性質を示すビジネスパーソンは少ないものと推察されます。
ギバーとして職場に貢献できる人材は、確かに評価される可能性が高いでしょう。
そして、日本人の多くは、自分の中にあるギバーの性質を自覚しやすい以下のようなエピソードを、少なからず持っているはずです。
行為だけを見れば、相手のことを考えて行動を起こしているように見えます。
しかし、その裏にこのような意図は隠れていなかったでしょうか。
このように、自分がとった善意の行動に対して、実際には何らかの結果を期待することは、テイカーの持つ性質です。
ギバーを意図して目指そうとするのも、根底にリターンを求める心理的傾向が見受けられるため、テイカー的発想と言えます。
ギバーには、一朝一夕ではなれません。
後天的に習慣を身につけることはできても、幼少期の教育・重大なライフイベントの経験などがなければ、なかなか周囲にギブを続けるのは難しいものです。
人によっては「役職に就いたんだから、周囲にギブしなければならない」と意気込み、半ば義務的にギバーになろうとするケースも考えられますが、それは時に自己犠牲へとつながる行為です。
誰かに与えることと、誰かから称賛される・評価されることは、必ずしもイコールではありません。
職場で自分を殺さず相手を活かすためには、お互いにwin-winの関係を築ける、他者思考型であることが重要です。
自分の利益についても十分に考慮した上で、他者にも利益のある行為を提案することが、ビジネスで大きな成果を出せるギバーの特徴なのです。
ギバー・テイカー・マッチャーの中で、長期的に見て転職先で評価される可能性が高いのは、ギバーでしょう。
しかし、自分がギバーであるとアピールすることは難しく、面接官が見極めるのもまた難しいものです。
ただ、視点を変えて考えてみると、企業としてはマッチャーが職場にいるメリットもあります。
すぐさま自分のメンタリティをギバーに寄せようとする必要はありませんから、面接時や採用後の行動では、自分と他者の利益を同時に得られる発想・行動を意識することが大切です。