人間が意図して普段の習慣・行動を変えるのは、どんなに小さなことであっても面倒なものです。
まして、40代に至るまでキャリアを積み上げた人が、今までの人生を変えることを志した場合、その道のりを平坦に感じる人は少ないでしょう。
これにはいくつか理由があり、例えば、以下のようなものがあげられます。
これらの理由は、時に根拠のないものであることも珍しくありません。
明らかに労働条件と待遇が割に合わないのに、自分のキャリアを否定することができず、他の会社などと比べて満足してしまう人は多いものです。
他にも、自分の認知に問題があったり、自分の性格について固定概念を捨てられなかったりと、様々な理由が考えられます。
こういった考え方・認知のクセは、人間の脳にとってなかなか変えにくい部分であるため、次第に世の中を自分の都合の良いように(もしくは悪いように)解釈していくようになります。
もし、あなたが自分の現在置かれている状況に疑問を感じ、人生を変えたくてこの記事にたどり着いたのであれば、筆者は「一人旅」をおすすめします。
出張でもなければ家族旅行でもなく、たった一人で、できれば当てのないまま「旅」をすることです。
この記事では、なぜ一人旅が人生を変えることにつながるのか、その理由と具体的な方法についてお伝えします。
一人旅によって、現在の自分を取り巻く時間・場所・人というファクターを見直せば、新しい視点が生まれるはずです。
受験勉強・就職活動・転職等の様々な場面で、時に人は思うようにいかない現実に遭遇します。
セミナーや講座を受講しても、早朝に勉強を始めようと本を読んでも、心の奥底に響くような体験ができず新しい活動をやめる例は数多く存在しています。
一方で、それまでに努力してきた自分自身を完全に否定することもまた難しく、どこかで自分を肯定しなければ生きることが次第につらくなってしまいます。
その結果、人は今置かれている環境を肯定するために、次第に自分の認知を客観的なものから主観的なものへとゆがめていきます。
このような傾向を「認知バイアス」と言います。
認知バイアスとは、自分にとって都合の良い情報だけを取り入れて、それ以外を例外として処理する思考パターンのことです。
自分が正しいことを裏付けるような情報を集めたり、仮定したことが本当に正しいのか反証することを怠ったりしていると、次第に自分の意見と反対の意見を遠ざけるようになります。
すると、他の人が客観的に見て自分の生活・習慣・環境等に問題があることに気付いて指摘しても、そのことに目を向けなくなってしまうのです。
これは、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも同様で、ギャンブルにハマっている人が「前回は勝てたんだから今回も勝てるだろう」と考えるのは必ずしも正しくありませんし、逆に大手企業で出世争いに敗れたから自分は負け組だと考えるのも極端な話です。
過去にギャンブルに勝てたこと・出世争いに敗れたことは、あくまでも一つの事実に過ぎず、自分の人生のすべてではないわけですが、なぜか人間は強力な思い出にとらわれてしまいがちです。
ビジネスにおいても、過去の事例や現状を分析した上で、その後の対策を講じるフレームワークは複数発明されています。
仕事という単位ではPDCAを難なく回せるにもかかわらず、どういうわけかプライベートで自分の過去にとらわれてしまう人は一定数存在しています。
こういった「自分自身の思考・認知」にバイアスがかかっていると、自分の人生を変える際に大きな障害となってしまい、足を引っ張ってしまうおそれがあります。
一方で、はた目には不幸な出来事と思われる事象を客観的に見つめ直し、成功を勝ち取った人も少なくありません。
認知バイアスは、自分の人生に対するスタンスを変える際に直面する大きな障害の一つであり、同時に正しく向き合うことで人生を変える大きなチャンスともなり得ます。
まずはこの点についてお伝えした上で、一人旅が認知バイアスにどのような影響を与えることが期待できるのか、次の段落で説明していきます。
認知バイアスは、人間の脳が効率的に情報を処理しようとする過程で起こります。
例えば、人間は自信を感じさせる話し方をしている人に魅力を感じてしまいがちですが、一方でその自信は話し手の知識・経験のなさに由来していることもあります。
もう少し具体的に説明すると、人間は無知であるほど自信過剰になり、逆に能力がある人ほど自己評価が低くなる傾向にあると言われています。
これは心理学で有名な「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれるもので、当人はもちろん、その周囲の他者評価能力は、残念ながらそれほど確度の高いものではないことを示しています。
プレゼンの場面や上司への報告の場面で、自分の頑張りが上司に認められず、逆に言葉巧みな社員が評価されるケースに遭遇した経験のある人は多いと思います。
あるいは、子育てにおいて「お姉ちゃんを見習え」などと言って妹を叱ったものの、実は姉が妹に悪いことを教えていたことが発覚して、悲しい気持ちになった人もいるかもしれません。
会社や家庭などで、日々同じような面々と顔を付け合わせていると、次第に「この人はこういう人」というイメージが固まっていきます。
そして、そのイメージは、ポジティブなものでもネガティブなものでも、時に真実から大きくかけ離れてしまうことがあります。
人間の脳が持つバイアスを完全に頭の中から消去することは、残念ながら難しいものです。
政治家・宗教家といった人々を先導する立場にある人間でさえ、国民や教徒のこと・ひいては自分自身を正しく理解しているわけではないことは、歴史を紐解けば明らかです。
要するに、人間の認知には少なからず誤りが含まれている可能性があり、なるべく認知バイアスにとらわれない思考・判断能力を身に付ける必要があります。
そのために大切なのが、自分を周囲の情報から「分離」させることです。
神経科学の研究機関「ニューロリーダーシップ・インスティテュート(NeuroLeadership Institute)」のカリル・スミスさんによると、ビジネスシーンにおける認知バイアスを意識的に取り除くためには、いくつかの対処法があると言います。
具体的には、以下のような対処法が該当します。
これらの方法の共通点は、一時的に自分と周囲の情報との間に時間的な距離を置き、分離させる中で自分の考えをまとめていることです。
発言者の雰囲気にのまれないように、話をなあなあで聞かないように、あえて情報を疑う姿勢を強める・考える時間を作っているわけです。
ただ、自分の人生を変えるためには、もう少し規模の大きな「距離の取り方」が求められます。
プロジェクトや議題に対してだけではなく、今までの自分が培ってきたすべてのことと向き合うわけですから、一時的に自分以外のすべての存在と距離を置く必要があります。
深刻に考えれば、パートナーと離婚して人生をリセットする・断捨離を行ってワンルームからスタートするなどの極端な方法を思いついてしまう人もいるかもしれません。
もちろん、そこまで思いつめる必要はまったくなく、あくまでも一時的に距離を取る方法を用いればよいだけです。
その「自分の人生と一時的に距離を取る(分離する)方法」こそ、一人旅なのです。
勉強でも努力でもなく、人生を変えるために一人旅で自分と向き合うというのは、いささか奇妙に聞こえるかもしれません。
しかし、忙しいさなかに自分だけの休みを取って、あえて40代で当てのない一人旅をするというのは、それなりの冒険になります。
中には、会社で過ごす時間が圧倒的に長く、出張の経験は数年以上前……という人もいるかもしれません。
また、会社の出張の場合、チケットもホテルも自分以外の誰かが予約してくれることは珍しくなく、100%自分の意志でどこかに出かける時間がなかなか取れなかったという人も多いでしょう。
そういう40代にこそ、一人旅をする意義は大いにあります。
以下に、あえて年齢を重ねてから一人旅をすべき理由について、筆者の意図をお伝えします。
会社によっては、ワーケーションのように仕事を持ち込みで旅行するケースもあると思いますが、完全に自分の気分に任せて旅程を考えるのは、楽しい反面不安を覚えるかもしれません。
特定の目的を持たず、普段と違う場所に赴くと、人は時間を持て余してしまうものです。
しかし、その中で過ごす時間は、おそらく多くの人にとって非常にゆったりとしたものになると思います。
ホテルに荷物を置いた後、駅前を散策したり、少し離れた商店街に足を運んでみたりと、散歩感覚で周囲を歩き回っているうちに、次第に空の暗さを感じて引き返す人もいるでしょう。
あるいは、勝手がわからず部屋の中を探索していると、机の引き出しの中から聖書や仏典・古事記を見つけ、なぜか読み進めてしまうかもしれません。
食べることが好きなら、繁華街でおいしそうな店を探したり、スーパーのおそうざいをチェックしたりするのも面白い発見です。
旅先でどのような行動をとるかはともかく、職場や家庭にはない非日常を味わう中で、普段と違う時間の流れを感じられます。
そこで、自分の新たな一面・忘れていた興味の対象を発見することができたら、本来の自分が少しずつ取り戻せている証拠です。
楽しいという気持ち・昔の夢などを思い出すことで、会社のため・家族のためにゆがめてきた自分の思考や認知について、バイアスに気付けるかもしれません。
現在の自分の中に流れている時間を、一時的に分断することで、自分本来の思考を取り戻す。
これが、40代が一人旅をすべき1つ目の理由です。
日本国内には、誰もが一度は聞いたことがある名スポット・魅力度ランキング上位に長年にわたって名を連ねる都道府県が存在しています。
しかし、行ったことがない地域や都道府県・行ったことはあるけど意識して観光したことがない場所というのは、誰しも少なからずあるのではないでしょうか。
例えば、東北の大都市の一つ・仙台市は、首都圏からのアクセスが良好ということもあって、東北最大の都市圏が形成されています。
そのため、宮城県の都市機能も仙台市に集中している傾向があり、東京圏をはじめとする大都市からは、主に仕事に関連する用事で仙台を訪れるビジネスパーソンも多いと思います。
しかし、一口に仙台市といっても5つの行政区があり、以下のような有名な観光スポットが存在しています。
もちろん、例にあげた以外にも多数の観光スポットがありますから、どの区を選んで旅行したとしても楽しめるでしょう。
普段はあまり行かないような場所に足を運ぶ時間があるのも、一人旅の醍醐味です。
もし、どうしてもスポットが思い浮かばないなら、スポーツジムに足を運んで汗を流すのも一つの方法です。
普段と違う環境で身体を動かすだけでも、新しい発見があるはずです。
今まで家族の希望に合わせて旅行先を選んできた人が、自分の意志で訪れる場所を決めるというのは、他ならぬ自分のための行動です。
誰にも気兼ねせず、自分の決断で行き先を決めることで、「自分にはこんな一面があったのか」という気付きが生まれることでしょう。
現在の自分が過ごす場所から、一時的に離れることで、自分に関する新たな情報・発見を得る。
これが、40代が一人旅をすべき2つ目の理由です。
自分の居住圏を離れた場所に旅行すると、その距離が遠ければ遠いほど、現在のライフスタイルとは遠く離れた人に出会える確率が高まります。
極端な話、北海道で暮らす人と沖縄で暮らす人との間にあらゆる面で違いが見受けられるのは、想像に難くありません。
人によっては、そのようなギャップを楽しむために旅行するというケースも考えられます。
また、日本を離れれば、当然ながら価値観や言語も違うため、その中で自分一人の能力が試されることになるでしょう。
旅行において、こういった「近所にはまずいないであろう人」と出会う効能は、自分自身の能力や考え方を再確認できることです。
英語など言語能力が十分に通用するのか・周囲と比較して自分はどんな人間に見えているのか・自分が暮らしている場所であれば許せないことは何なのかなど、色々と自分に関する情報が掘り起こされていきます。
つまり、旅行先の人を通して、自分自身の内面を見つめる機会が得られるのです。
これが、40代が一人旅をすべき3つ目の理由です。
ここまでお伝えしてきた通り、一人旅は周囲の環境や人間関係と一時的に距離を取って、本来の自分自身を再発見する効果が期待できます。
しかし、せっかく一人旅を楽しく終えても、それが自分の将来につながっていかなければ、人生を変えるような効果は期待できません。
続いては、一人旅をより有意義なものにする方法について、もう少し具体的なポイントをお伝えします。
どれを試すかは読者次第ですが、いずれか一つを試すだけでも、新しい発見があるはずです。
自分が漠然とでも現在の人生を変えたいと思っているなら、おそらくそこには理由があるはずです。
しかし、頭の中で思考を巡らせるだけでは、同じことを延々と考えてしまったり、逆に思考が別の方向へと向かってしまったりして落ち着きません。
そこで、旅行をきっかけに自分の考えを整理する意味で、旅行記を書くことをおすすめします。
旅先で手帳の余白に書き記しても、旅行から帰って来てから大学ノートに書きなぐっても構いません。
書き方は基本的に自由ですが、どう書いてよいか分からない人のために、以下の項目をご紹介します。
文例としては、以下のような形になります。
2019.6.10
仙台パルコ最上階にある寿司屋にて昼食をとる。
板前さんが手際よくネタをさばいてくれた。
美味しいものを食べる、その裏に誰かの努力が隠れている。
そういった努力を認められる、認めてもらえる人間でありたいと思った。
現状に満足できていないのは、周囲の環境に依存しているからだろうか?
それとも、自分の努力の方向性が間違っているのだろうか?
私は、何によって憶えられたいと思っているのか?
お気付きの方も多いと思いますが、文例における気付きの欄では、ドラッカーの名言が一部に含まれています。
すべてを自分の言葉で書き綴る必要はなく、自分用のメモとして、著名人の言葉を拝借しながら考えを整理するのも有効です。
ささやかな自分の感想・気付きを無駄にせず、そこから現在の自分が課題に感じていること・将来への欲求につなげる機会とすることで、旅行を素敵な・意味のあるものにできるでしょう。
旅行を終えた後は、旅行時の好奇心を保ちながら、今度は旅行の延長という感覚で日々を過ごしてみましょう。
旅行時と同じように、自分が感じたこと・考えたことに正直になって、時間・場所・人のファクターについてとらえ直すのです。
経営コンサルタントの大前研一さんは、著書「時間とムダの科学」の中で、人生を変える方法について以下のように述べています。
人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、「決意を新たにする」ことだ。
時間、場所、友人の中でどれか一つだけ選ぶとしたら、時間配分を変えることが最も効果的だ
一人旅では、一時的にこれら3つを実践する機会に恵まれます。
具体的には、時間にとらわれず、ホテルや旅館などで過ごし、よく知らない人と会う機会が増えます。
そんな非日常の中で気付いた点を踏まえ、今度はそれを実生活に反映させることを試みるのです。
実際に何ができるかは、その人の環境や優先順位によって変わってきますし、最初から劇的に物事を変えることにはつながりません。
ただ、大きな課題になっていることが頭にあるなら、まずはそれを解決することが先決です。
日々の時間配分に余裕がないと感じたなら、15分だけ日記を書く時間を確保してみる。
住む場所が現在勤めている会社から遠いなら、在宅勤務の日を増やしてみる、もしくはホテルから通勤してみる。
新しい人間関係を求めているなら、SNSで気になる地域の人とつながってみる。
仕事やプライベートで忙しい中、自分のためだけの旅程を組めたのなら、少なくとも何か新しいことを起こせる体力・気力は十分と言えます。
非日常の延長線に未来を見据え、変えられそうな部分から少しずつ変えていく努力を継続することで、いつの間にか過去の自分とは違うところにたどり着けるはずです。
もし、旅行前の段階で解決したい問題が明確なら、一度試してみて欲しい方法があります。
それは、自宅から見て旅行先の方位がどうなっているかチェックしてから、詳しい旅程を立てるというものです。
方位と聞くと、「中国の帝王学の一つ」・「富貴な人物が信じるジンクス」といったイメージを持つ人も多いと思います。
それは概ね正しいのですが、方位はやはり古くから用いられているだけあって、まんざらジンクスというわけでもありません。
敗戦・被爆など厳しい時代を経験した後、歌や舞台の世界で愛と美の世界を表現し続け、人々の心に光を灯してきた美輪明宏さんは、著書「霊ナァンテコワクナイヨー」の中で、運をつける4つの項目について紹介しています。
一、素直な<善い>心を持つこと
二、自分の家代々の神仏および先祖供養をすること
三、姓名判断による改名
四、気学・方位学を活用すること
言うまでもないことですが、美輪さんが強く訴えているのは「一」の項目であり、それ以外は絶対的に人生を変える上で必要なこととは言い切れません。
しかしながら、人生の軌道修正を考える上で、先人の考えを柔軟に受け入れることも大切です。
現代では、スキルマーケットや占術専門サイトなどで、実力のある占い師に鑑定を依頼するハードルが低くなっています。
ココナラなど、低価格・匿名で吉方位を確認してもらえるサービスもありますから、人生を変えるにあたり勢いを付けたい人は利用してみてはいかがでしょうか。
以上、人生を変える方法としての、一人旅の有用性についてお伝えしてきました。
若い頃は色々な場所に旅してきたという人でも、40代を過ぎるとなかなか自分の時間が取れず、旅行含め新しい活動におっくうになってしまう人は多いと思います。
しかし、小さなことができなければ、当然ながらいきなり大きなこともできません。
今まで難なく人生のレールに乗ってきた・乗り換えを成功させてきた人であっても、やはりどこかで不平不満があるとレールにゆがみを見つけるようになります。
それを放っておいても、どんどん状態はひどくなるばかりですから、やはり時期を見て修理を実施したいところです。
どんな環境にあって、どんな不満を抱えていても、それを変えるのは自分の心次第。
まずは、自分の心と向き合う機会を、一人旅で見つけてみてはいかがでしょうか。
旅行に苦手意識を感じている人は、身近なところでも視点を変えて過ごしてみましょう。
きっと、今までは気付かなかった発見があるはずです。