かつて織田信長が「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」と敦盛を舞っていた時代、人命は儚いものの一つでした。
しかし現代は、日本国内における個人の健康管理能力の向上・医療体制の充実により、2018年時点での日本人の平均寿命は男性81.25歳・女性87.32歳と、男女とも過去最高を更新しています。
参考:日本人の平均寿命はどれくらい? / 生命保険文化センター
平均寿命が延びている事実は、多くの日本人に「老いとどう向き合うか」という新しい課題を突き付けました。
特に、長年仕事を生きがいとしてきた50代のサラリーマンは、定年退職後の人生について否応なしに考えざるを得ない状況です。
その一方で、定年退職後は今まで仕事に傾けていた時間をすべて自分の思い通りに使うことができます。
今まで仕事が忙しくてあきらめていたこと・家族や会社に迷惑をかけるからと控えていたことを、思う存分楽しむことも十分可能です。
定年後を生き生きと過ごすためには、不安要素や生存に伴うリスクを洗い出した上で、気力・体力・知識・経験を充実させる必要があります。
この記事では、50代のサラリーマンが直面する将来の不安と、定年後の生活を充実させるために必要な準備についてご紹介します。
まずは、50代を迎えたサラリーマンの未来にとって、具体的にどのような不安が生じるおそれがあるのかを把握しておきましょう。
以下にあげる要素だけがすべてとは限りませんが、仕事に関する問題・お金に関する問題をおざなりにしてしまうと、他の要素の充実度を大きく左右するため、今まで何も考えてこなかった人には考える時間が必要です。
高年齢者雇用安定法の改正により、定年が60歳から65歳まで延長されました。
また、労働者の希望があれば最長70歳まで定年を延長できるシステムの導入が、2021年からは企業の努力目標となっています。
さらに、定年後も働き続けたい人は、再雇用制度などの諸制度により契約を更新できます。
体力が続く限り、働き続けたい人はいつまでも働ける体制が整いつつありますが、再雇用制度は決して万能な制度ではありません。
1年ごとに成果が評価されるため、前年度の成績によっては給与が大幅にダウンしてしまうおそれもあるのです。
現在のところは健康に不安を感じていない人であっても、50代から10年以上が経過した時、身体に何の問題も起こっていない状況は考えにくいものです。
健康診断の結果に問題はなかったとしても、仕事への集中力が途切れる・モニターの画面を見ていて目がチカチカする・長い間歩き続けていると動悸や息切れがするなど、体力的な問題から逃れることはできません。
会社で働く以上、自分のペースで自由に働ける環境に配属されるとは限りませんから、長く働き続けたいならそれ相応の自己管理が求められます。
50代の段階で健康不安がある人は、早めに医療機関での治療を受ける・毎日運動の習慣を取り入れるなど、自分の健康に投資することが必要です。
関連記事:役職定年で年収はどう変わる?つらい時期を前向きにとらえるための処方箋
もし、再雇用制度の思うような更新がままならなかった場合、それは今まで続けてきた仕事を失うことにもつながります。
長年仕事一筋だった人は、そこでやりがいを失ってしまい、将来を悲観してしまうおそれがあります。
これは、必ずしも当人の健康問題・キャリアだけに起因する問題ではありません。
例えば、高齢化の傾向が進み、再雇用制度の対象となる社員が増えたことにより、企業の懐事情から採用を控えざるを得ないという状況も想定されます。
要するに、定年を迎えた段階で、自分のイスがなくなってしまうことも考えておかなければならないのです。
そうなった時に問題となるのが、当座の生活費をどう確保するかです。
年金だけで生活費を賄えるなら問題はありませんが、少子高齢化が進む日本において、年金だけに頼るのは現実的ではありません。
2019年6月3日に金融庁の金融審査会がまとめた報告書「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」において、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)は、実収入と実支出の差がおよそ月5万円という調査結果が報告されています。
参考:高齢社会における資産形成・管理 / 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書
当時の政府は「正式な報告書としては受け取らない」と表明していますが、その後に報告書の内容がメディア・評論家によって発信され、国民が「老後30年で2,000万円を取り崩さないと生活できない」という認識が広まっていきました。
後に、これは必ずしも実態を表したものではないとする冷静な論調が増え、次第に鎮火の方向へと進んでいきましたが、将来に対する漠然とした不安を国民に残す結果となりました。
実際、現在の50代サラリーマンが年金をもらえる「定年後の年齢」は引き上げが検討されており、年金制度の継続に対する不安を感じさせます。
このような状況下において、定年後の豊かな生活を確保するためには、金銭面での準備や新しい仕事の構築が必要です。
年金が減少したとしても最低限度の生活ができるよう、お金を残しておくための対策を講じなければなりません。
関連記事:貯蓄ナシからでも老後に間に合う? 40代から始める資産形成
仕事の不安・金銭面での不安を解消するためには、会社で仕事をこなしている50代の時期から、将来に向けて何をすべきかを考えることが大切です。
特に、以下の点を意識して生活することで、会社に依存しない「自分自身」への自信が強まることでしょう。
会社・部署で身に着けたスキルは、社内でしか役に立たないことも珍しくありません。
いわゆる社内ルールや、特定のモデルに限った機器の操作技術など、テクニカルスキルはどの会社・組織でも通用するとは限らないのです。
一方で、どんな会社・組織でも必要とされるポータブルスキルは、あらゆる場所で応用が利きます。
仕事の仕方・人との関わり方など、業務遂行能力やコミュニケーション能力の高さは、生涯にわたり自分を助けてくれるスキルです。
自分が今までどのように仕事と向き合ってきたか・資格はどのようなものを取得してきたかなど、客観的に評価できるものがいくつあるか数えてみましょう。
国家資格も含め、会社を離れてからも活用できるものがあるなら、それを活かす道を考えることも大切です。
また、社内外を問わず自分と関わってきた人々も、将来的に自分がただの「個人」となった時、それでも交流を続けてくれるとは限りません。
上司・同僚・部下の垣根を越えてコミュニケーションを取れる人の存在を増やすことが、将来の孤独を防ぎます。
起業を考えている部下の助けになる・飲み友達になってくれそうな同僚を見つけるなど、自分のプライド・思い込みを捨ててフラットな関係を築く意識を持てば、その分だけ新しい人間関係が構築しやすくなるでしょう。
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もし、現在働いている会社が副業に対して寛容であれば、比較的リスクの低い副業に手を出してみることをおすすめします。
例えば、クラウドソーシングサイトを通じて仕事を引き受けるなどの方法があります。
自分がデザイン・イラスト作成に携わった経験があるならイラストを書く、経理を担当していたなら仕訳入力の依頼を受けてみる、管理職の経験があるならマネジメントに関する相談を受けるなど、クラウドソーシングサイトでは幅広い仕事の中から自分ができそうなものを選べます。
飲食業に携わっているなら、自分のスキルを試す意味でキッチンカーをレンタルし、イベント出店を試みるのもよいでしょう。
もし、収入が得られて事業主としての登録が必要になった場合、その時点であなたは「個人事業主」もしくは「社長」です。
自分の才覚・アイデアだけで収入が得られることは、その後の自信につながります。
借金を必要としない範囲で、日々の糧を得るためにできることは、一通りチャレンジしてみましょう。
関連記事:今、注目の「副業」の準備、具体的に何から始めればいいかを解説
50代の時点では、リストラなど急な形で退職を迎えない限り、給与が毎月支給される生活がほぼ保障されています。
その間に、できるだけ早く何らかの形で投資を経験しましょう。
日本で行える投資にも様々な種類があり、長期的な投資で収益を得る株式投資・売買価格と家賃収入のバランスを考えて行う不動産投資・短期的なトレードで収益を出すFXやバイナリーオプションなどがあります。
どのスタイルが自分に適しているかは、実際に経験を積んでみないと分からないものですから、自由に使えるお金の中から一部を投資に回し、成功例・失敗例の蓄積に力を入れましょう。
資産のほとんどが預金という場合、まずはそのうちの10%を投資に回すことをおすすめします。
自分が冷や汗をかくような金額は投資せず、無理のない範囲から始めることが大切です。
仕事での成功と人生の充実度は、必ずしも比例しません。
一生懸命仕事をしてお金を稼いでも充実感を得られず、業界のメインストリームから離れた後、趣味の世界を極めて成功した人は少なくありません。
一例をあげると、かつて「ヒロシです」のギャグで一世を風靡したタレントのヒロシさんは、その後キャンプ系Youtuberとして再ブレイクしています。
タレントとして忙しい日々を過ごしていた頃、一時期は月収が4,000万円に達した時期もありましたが、次第に「ここにいたら自分が壊れる」と考えてテレビから遠ざかり、趣味であるソロキャンプの様子をYoutubeで発信することで、人気チャンネルの構築に成功しました。
現代では、自分の趣味がそのままキャリアになる可能性があり、Youtube以外にも、ブログやインスタグラムなど情報発信の方法は数多く存在しています。
今までやろうと思っていて、仕事を理由に遠ざけていた趣味があるなら、50代を機に再び始めてみてはいかがでしょうか。
関連記事:副業に気が重いサラリーマンにおすすめ!「パラレルキャリア」でもう一つの名刺をつくろう
50代は、まだまだ会社の中でやるべきことがたくさんある年代です。
そのような状況下で、定年や再雇用についてあれこれ考えることは、なかなか難しいかもしれません。
しかし、その時はいつか必ずやって来ます。
自分が生まれてからこの世を去るまでの間、最後まで人生をともにするのは、他ならぬ自分自身です。
今だけにとらわれず、これからのことを考えながら、会社に頼らない自分だけのキャリア・資産の構築に向けて準備を進めてみましょう。
眼前に見える風景は、間違いなくあなただけのものです。一度きりの人生だからこそ、自分が主役になれるような生き方を50代から始めましょう!
<参考>
”高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~” / 厚生労働省
”ヒロシが語る、YouTuberへの転身とソロ活のススメ 「人の目を気にしないで、好きに生きてみてもいい」” / Real Sound|リアルサウンド