転職活動は、ありきたりな理由で進めようとすると、すぐに行き詰まってしまいます。
自分を正しい方向へと向かわせるためには、どこに行けば目的地にたどり着けるのか、できるだけ詳細な地図を用意すること・すなわち自己分析が必要となります。
ただ、誰もが自己分析を得意としているわけではなく、年齢を問わず強い苦手意識を持っている人も少なくありません。
自分の長所・短所・スキルを言語化することが苦手な人、自分に自信が持てない人は、自己分析と考えるだけで嫌な気持ちになったり、逃げ出したくなったりすることもあります。
しかし、転職活動を進める上で、自己分析をするのとしないのとでは、結果に大きな差が生じます。
なぜなら、自分が何をしたいのか・何ができるのか・何をすべきなのかが分からなければ、そもそも転職の目的や入社したい企業の希望さえおぼつかないからです。
自己分析は、始めるまではおっくうかもしれませんが、いざ続けてみると非常に奥深いものです。
自分が思いもよらなかった未来が、自己分析によって開けてくることもあります。
この記事では、そんな自己分析が苦手な人向けに、自己分析を始める前に押さえておきたいポイントと、長所・短所・スキルを効果的にまとめる「転職の技法」をご紹介します。
まずは、自己分析が苦手だと感じる、その心理を紐解いていきましょう。
人によってとらえ方は様々ですが、概ね以下のような理由が当てはまるものと推察されます。
就活で苦しみようやく内定をもらい、好き嫌い問わず仕事に打ち込んできた結果転職を考えているなら、今まで働いてきた職場に少なからず不満を抱えているものと思います。
しかし、そこで行動を起こせないなら、それは自分への自信が欠けている状況なのだろうと考えられます。
自己評価の低さは、日本人の美徳である「謙遜」につながるため、一概に悪い傾向と決めつけられるものではありません。
その一方で、極端に自己評価が低い人は、周囲からの評価も下げてしまうおそれがあります。
面接での自己PRや強みの説明について、企業側が期待する情報を提供するためには、自分が「これだけは他に負けない」と自負できるものを用意したいところです。
そのためには、やはり自分が培ってきた経験について、肯定的にとらえられるメンタルを構築する必要があります。
自信のなさは態度にも表れるものですから、面接という場ではどうしても不利に働きます。
自己評価が低い人は、そのような場面をありありとイメージできるからこそ、どんどん自分に自信が持てなくなるスパイラルに陥ってしまうのです。
世の中には、セルフイメージと実際の行動が一貫している人も少なくありません。
そのような人は、あえて自己分析を試みる理由が理解できず、自己分析にそれほど時間をかけずに転職活動に臨む場合があります。
本人が、転職の目的・仕事の内容を正しく理解していて、自分の価値観に合致した職場で働けると思っているなら、それでもよいでしょう。
しかし、自分のことを自分で正確に理解することは、決して簡単なことではありません。
プロ野球を奥深く理解した上で、情報に大きな価値を置いた「ID野球」でヤクルトスワローズを強豪球団に育て上げた名監督・野村克也さんは、このような言葉を残しています。
『自分のことは自分が一番よく知っていると思うかもしれないが、往々にして他人の方が自分のことをよく知っていることが多い 』
ID野球のIDとは「Important Data」のことで、経験・勘に頼ることなく、データを駆使して科学的にプレーを進めていくスタイルがID野球です。
経験や勘も決して馬鹿にはできませんが、往々にして間違いを犯すこともあり、その点客観的なデータにフォーカスした野村さんの知見は、ビジネスの要諦の応用と理解できます。
他人から指摘を受けることで、自分の新たな一面に気付く場面は多いものです。
自己認識と他者認識のギャップを埋める意味で、自己分析は誰にとっても必要なものだと言えるでしょう。
自己分析を行うことで、かえって視点が変な方向に定まってしまい、逆効果になることをおそれている人もいるでしょう。
例えば、志望先と自分のニーズにすれ違いが生じていることに気付かず、わずかな一致点だけをテコにして面接までこぎ着けた場合などが該当します。
内容がどうであれ、掘り下げた自己分析ができればできるほど、中身は濃いものになりますから、応募書類は洗練されていきます。
しかし、面接の日に採用担当者から話を聞いて、正直「この会社は違うんじゃないか」などと感じてしまった人も少なくないはずです。
結果として、転職活動で失敗した経験のある人なら、手の込んだ自己分析はかえって行わない方がよいと考えてしまうのは当然です。
こうした問題は、自分の強み・弱みを客観的に分析できていない、主観が入ったまま自己分析を続けてしまうことで起こり得ます。
自己分析を行うことそのものが問題というわけではありませんから、その点に注意が必要です。
先にご紹介した野村さんの名言にもある通り、自分という存在を自分だけで知ろうとするのは難しいため、自己分析は自力で完結できるものではありません。
自分を見つめ直す過程で壁が生じたら、周囲から意見を集めることが大切です。
身近な面接官として、家族や友達から意見をもらうよう心掛けると、案外面白い答えが返ってくることは珍しくありません。
自分としてはいい加減な性格を直したいと思っているにもかかわらず、周囲から見れば几帳面・真面目・丁寧だという回答が返ってくることもあります。
親しい間柄にある人の意見ほど、そのギャップに驚くこともあるでしょう。
そこから自己評価が高まることもありますので、ギャップをもとに自分の考えや行動を修正していけば、より自分の理想に近い仕事・職場が見つかりやすくなるはずです。
より客観的な意見を求めるなら、転職エージェントサービスに登録して、キャリアアドバイザーに相談してみましょう。
数多くの求職者に対応してきた経験をもとに、自分の現状における最善の答えを一緒に考えてくれます。
自力で求人サイトをチェックするのとは違い、企業の情報をよく理解した上で、現段階で自分が貢献できる分野を探し当てやすくなります。
性格の認知に偏りがあるかどうか・業界全体とのマッチングはどうかなど、ミクロ・マクロの両面から自己分析をサポートしてくれることが期待できます。
他社に意見を求める際の大前提として、自分自身の情報(キャリアや性格など)については、事前に棚卸しが必要です。
ここをおろそかにしてしまうと、せっかく意見を聞いてもうろ覚えで終わってしまう可能性がありますから、確認する前に自分なりに履歴書・職務経歴書を書き上げておいた方がスムーズでしょう。
ポイントとして、この段階ではあまり完璧な内容に決め込まず、ブレーンストーミングの要領で書ける範囲で・参考情報をつづるニュアンスでまとめることをおすすめします。
清書は最後の最後・応募直前で構わない話ですから、思いつくままに空欄を埋めていき、応募書類を一緒に見てもらいながら修正をかけていくのが理想です。
転職における自己分析の重要性を理解して、周囲から情報を提供してもらったとしても、なかなかポジティブに物事を考えられず悩んでしまう人もいると思います。
そのような人は、あえてその欠点を自分の資源としてとらえ直し、新たな可能性に置き換える方法を学べば、やがて自分を肯定できるようになるかもしれません。
自分が欠点だと自覚していることは、大抵の場合、大きな壁となって人生に立ちふさがります。
ただ、その壁を本当に乗り越えるべきかどうかは、今一度検討の余地があります。
大きな欠点があるなら、過去・現在・未来を見通しながら、その欠点を直さなかった場合どうなるかをイメージしてみましょう。
具体例と挙げると、つい感情的に物事をとらえてしまい、悲観的になる傾向があると自覚していて、それをそのままにしておいたらどんな生活になるのか、などを考えるわけです。
もし、感情的になり不安が増大して、その結果暴飲暴食に走る傾向があると自覚できているなら、早急に対策を講じなければ健康問題が生じるリスクがあります。
また、人に感情をぶつけやすい性格だと思うなら、そのせいで役職の椅子を失ったり、退職したり、あるいは訴えられたりするかもしれません。
このように、放っておいて害悪しかない欠点ならば、メンタルコントロールを学ぶ必要があるでしょう。
逆に、メンタルコントロールに成功した経験が生まれれば、それが自分の自信となるはずです。
しかし、「落ち込みやすい」・「周囲の目を気にしてしまう」・「教養がない」・「決断が遅い」とかいった理由は、大なり小なり誰もが経験するものですから、そこまで掘り下げて考える必要はないかもしれません。
「改善した場合に、自分の生活が劇的に変わるであろう問題」だけに欠点を絞れば、転職活動においてもその後の対策を立てるのがスムーズになるはずです。
自分が深刻な欠点だと感じていることでも、視点を変えれば長所になる可能性があります。
そこに明確な根拠がなくても、自分なりに納得できる形で欠点をよい方向に解釈できたなら、その後の戦略の立て方が大きく変わってきます。
あきらめの悪い性格をしていることがコンプレックスなら、逆の発想で「同じことを達成できるまで続けられる忍耐力」があると自分をとらえ直せば、よりその性格を活かせる業種・職種を選ぶことにつながります。
あるいは、一つのことに没頭しやすく時間を忘れてしまう・周囲への気遣いがなくなることを自覚しているなら、何にでも「全身全霊で取り組める努力家」だと自分を再評価することもできるでしょう。
このように、自分の頭では欠点と自覚していることを、あえて長所に置き換えようとする訓練をしていくと、短所に目を背けずそのまま自分の資産に加えることができます。
アピールポイントが少ないと感じている人にとって、この方法は非常に有効ですから、ぜひ試してみてください。
自分ができることは、誰にとっても当たり前ではありません。
資格を取得したこと・大学を卒業したこと・現職で役職に就いたことは、その難易度や規模はどうあれ自分の大切な財産です。
そこまで頑張ってきた自分の結果を無条件で肯定することが、やがて未来につながっていきます。
受験勉強・就職活動の過程で、自分が本来行きたかった学部・会社にたどり着けなかったとしても、そのおかげで今があると考えれば、意味のあるものだったと素直に納得できるはずです。
資格も学歴も役職も、基本的にはそのまま履歴書・職務経歴書に書ける情報ですし、その背景には自分だけのドラマが隠れています。
自信を持って今までの人生を振り返り、その中で自分の新たな魅力に気付けるよう、負い目を感じず転職活動に臨む姿勢を持ちましょう。
自己分析の重要性と、取り組む際に押さえておきたいポイントについて確認したところで、続いては自分の長所・短所・スキルを効果的にまとめるために有効な「転職の技法」についてご紹介します。
今回お伝えするのは、「独学大全 (読書猿 著) 」の中で紹介されている「カルテ・クセジュ」という方法の応用版です。
参考文献:独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法
具体的な作業の進め方について、筆者の経験を踏まえつつ図説(カルテ)もご用意しておりますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
なお、今回はマインドマップの作成手法をベースに図説を説明していきます。
各種マインドマップ作成ソフト・A4紙・カレンダー裏面などを利用して、自分だけのカルテを作成してください。
自分が今までの経験で培ってきた経験や資格・能力などを、順不同で構いませんので、いくつか書き連ねていきます。
このとき、できるだけそれぞれの項目と距離を空けておくと、各項目に情報を付け足す際に便利です。
紙に書き出した後は、それぞれのスキル・リソースについて、自分の知識を踏まえた上で、すぐに貢献できそうな要素に絞って四角で囲みます。
筆者の場合、経理事務の経験が10年以上あり、ライターとして独立後も自分で仕訳を切って確定申告も行っているので、その経験は役立つだろうと考え四角で囲んでいます。
また、Excelを使ってデータをまとめる機会も多く、納期管理もExcelで行っているため、こちらも必要十分な能力があるものと判断して四角で囲みました。
ライティングと占いは、すでにスキルマーケット・ココナラで商品ページを作成しており、おかげさまで今日まで生計を立てることができているので、こちらも四角で囲みます。
逆に、タイピングに関しては、その早さ・正確さだけで収入を得た経験がないため、四角では囲みませんでした。
このように、まずは自分のスキル・リソースを自分なりに解釈して、無理のない範囲で囲みを入れてみてください。
次に、いったん四角で囲んだものを掘り下げて思い返し、ネットリサーチなど簡単なレベルで、そのスキル・リソースにどのようなニーズがあるのかを確認していきます。
もし、その過程で新たに頭に浮かんだものがあれば、そちらも新たに書き出して構いません。
基準は人それぞれですが、筆者の場合は以下の基準でリサーチを試みています。
その結果、現時点でそのスキル・リソースが「利用価値のあるもの」と判断したら、太線の四角・もしくは二重囲みの四角にします。
筆者の例で言えば、経理事務として応募要件を満たしている求人情報がいくつか存在しており、ライティング自体のニーズも決して減少していないことから、日商簿記2級・経理事務・ライティングスキルの3つは確実に使い道があると判断しました。
もちろん、技法はこれで終わりではなく、これからが本番です。
というのも、太線の四角で囲んだスキル・リソースは、現職でも活用しているものがほとんどのはずですから、新しい環境で同じ能力を活かそうとすると、今までと同じ不満や問題を抱えるおそれがあります。
次の手順では、太線の四角で囲んだスキル・リソースの先を見据えて、まだ囲っていない部分との関連性を見出していきます。
ここまでの手順を一通り終えたら、もう一度目の前に書かれている情報を見直して、各項目同士で何らかのつながりが見出せそうな項目を線で結んでいきます。
似たような項目・本質的には同じ類の能力を求められる項目・太線の四角で囲んだスキルに応用できそうな項目を意識して、もれなく結ぶのがポイントです。
太線の四角で囲んだものだけにこだわらず、いったん対象外となったものも含めて結んでも構いません。
この段階で気になった項目があれば、省かれたものとも結んでいき、手順②~③に戻ってリサーチをかけていきます。
筆者のスキル・リソースを線で結んだ場合、圧倒的に親和性が高いのがライティングスキルでした。
ライティングの場合、旅行・転職・自動車・占いなどに関する知識や経験につき、それを文章化してオウンドメディア・ブログなどに投稿できれば収入になりますから、比較的他のリソースとの相性はよいと言えそうです。
また、筆者は自動車販売会社で働いていたことがあるので、例えば自動車税の支払い手続き・各部品の価格に関するリサーチも、未経験者に比べれば早くできるでしょう。
よって、自動車に関する知識と経理事務との親和性は多少高めだと思いますので、自動車業界の経理担当者として働くなら勤め先があるだろうと判断し、線で結んでいます。
転職経験という観点からライティングスキルを検討してみると、メール・ビジネス文書・履歴書・職務経歴書に関しては、割とそれなりの種類と分量を書いたものと思いますので、こちらもライティングに役立てられそう・つなげられそうと判断しました。
ゲーム業界のトレンドを追うことがスキル・リソースに含まれているのは、筆者が一時コアゲーマーに分類されるであろうレベルまでハマったゲームがあるからで、その名残からゲームに関するトレンド(特にコンシューマー)は比較的スムーズに追えると判断しているからです。
筆者に限らず、誰でもキャリアや嗜好を掘り下げていくと、様々なことが思い出されるはずです。
あとは、それらを現在の状況と組み合わせながら、転職に活かせる形になるかどうか模索し続ければ、自分が今まで思いもよらなかった道が見えてくるかもしれません。
各スキル・リソースとのつながりがある程度見えてきたら、次に「より興味を深めたいスキル・リソース」について、赤の四角で囲んでいきます。
囲んだ段階でそこまで詳しくないことでも、自分の興味を示す意味で記録を付けておけば、それを複数の方向に応用できます。
転職先・新しい仕事で活用できるものを選んで赤の四角を囲むと、応用の方向性を定めやすくなります。
逆に、現段階ではそこまで詳しくないものでも強い興味があるなら、転職に至る条件の一つとして関連資格の取得を目標に掲げてもよいでしょう。
今後の課題とするもよし、転職の方向性をつけるもよし、赤の四角をどう応用するかは自由です。
現在の自分にとって重要なファクターであることを押さえた上で、次のステップに進みましょう。
内容をまとめていくうちに、カルテにはたくさんの情報がまとまっていくと思います。
筆者の場合は、各項目の中で短所になる可能性があるものを洗い出すため、小項目を設けることにしました。
結果的に、今回の分析で筆者が出した結論としては、
上記のような方向性で求人情報をチェックするイメージができあがりました。
一度は結論を出したとしても、転職活動がうまくいかなかったり、興味の方向性がそれたりする可能性があります。
そんな時は、迷わず改良を重ねていきましょう。
筆者の場合は、経理業務と旅行経験の項目に改良の余地があると判断したため、思いついた要素を書き足して赤い四角で囲みました。
別の可能性を模索し、事業主として働き続けることを再検討しています。
カルテ・クセジュという技法を転職に用いる場合、一人で黙々と取り組んでもよいのですが、できあがったものを誰かに見てもらい、フィードバックをもらうのもよい方法です。
例えば、転職エージェントからのフィードバックなら信頼性・客観性が高いので、転職活動を効率的に進める上ではおすすめの方法です。
以上、自己分析に苦手意識を持っている人向けに、長所・短所・スキルを効果的にまとめる「転職の技法」についてご紹介してきました。
カルテ・クセジュは、転職活動だけでなく、自分が学びたい分野を特定することにも用いられる方法ですから、自分なりの応用の仕方を見つける参考となれば幸いです。
自分と向き合う行為は、それ相応に疲れがたまりますし、時には嫌なことを思い出してしまうかもしれません。
しかし、正しく向き合い乗り越えれば、それは必ず自分の血肉となって、転職活動に役立てられるはずです。
自己分析の方法は数多く存在しますが、自分の興味やスキルをベースに転職活動の方向性を定めるなら、カルテ・クセジュがとても便利です。
自分が知らなかった・知ろうとも思わなかった分野にまで理解を深めるうちに、いつしか自己分析に対する苦手意識は飛んでいき、自分への強い興味が湧いているはずです。