転職活動をしていると、自分と社会との間にある距離を、否応なしに見せつけられます。
多くの場合、自分の自己評価が社会の評価と一致しないため、40代以上になって結果が出ないと、今までの自分を否定されたかのように感じ、ネガティブな気持ちに悩まされてしまうことは珍しくありません。
活動中はもちろん、内定をもらって新しい職場で働き始めてからも、つらさを抱え込んだまま悩みを相談できない状況が続くと、ストレス・不安からうつ病などを患ってしまうかもしれません。
社風・人間関係・仕事の評価・上司との折り合いなど、時として前職以上に問題のある環境で働くリスクもあります。
しかし、失敗に気付いてから、自分の性格に悩んだり自己嫌悪に陥ったりするのは、転職経験者に限らず人間なら誰でも通る道です。
悩む理由・メカニズムを正しく理解できれば、自分が不安に感じている要素をあぶり出し、前向きに自己分析を進められます。
この記事では、40代が転職の悩みを誰かに相談できない理由、脳科学の観点から見た悩みとの向き合い方、感情に左右されず自己分析を行う方法をご紹介します。
転職活動中の悩みには、年代を問わず共通しているものと、年代特有のものがあります。
40代の場合、例えば家族の存在や現職の忙しさから、納得のいく結果が出せていない状況が考えられます。
つまり、転職活動中の悩みを誰かに相談できない環境が、何らかの形で求職者を追いつめているものと推察されます。
もし、自分の転職活動を振り返ってみて、以下の理由が当てはまるようであれば、物事のとらえ方を変えてみる・赤の他人を探して相談してみるなど、自分の思い込み・考えを変える試みが必要かもしれません。
現在働いている会社を退職してから転職活動を始める人もいますが、大抵の場合、現職で働きながら転職活動を行うケースが一般的です。
退職してしまうと収入が途絶えてしまうため、その後の生活に悪影響を及ぼし、結果的に転職に失敗する可能性が高いからです。
そうなると、現職のスケジュールの合間をぬって転職活動に時間を割かなければならず、役職などに就いているとそれだけチャンスも限られてきます。
応募書類は送れたとしても、面接が土日になってしまうなど、先方に負担をかけてしまうおそれがあります。
かといって、平日に有休をとるのであれば、理由を設けて休まなければならず、アリバイ工作など面倒な手間がかかるかもしれません。
また、普段と異なる予定を組み込むと、普段を知っている同僚・上司・部下の目から見て「違和感」があった場合、そこから転職活動の疑いをかけられるおそれもあります。
特に、私服勤務の職場でスーツを着る・残業が当たり前の職場で定時退社するなど、周囲が変化を感じやすい状況であれば、それだけバレるリスクが高まります。
そのような環境で同期や上司に相談する場合、バレた時のペナルティも想定して相談しなければならず、あまり現実的な選択肢ではありません。
こうして、一人悶々と悩む時間が増えてしまうのです。
誰かに否定されることは、事の大小を問わず心に響くものです。
不採用通知もその一つで、自分の頑張りや実績が認めてもらえなかったと思うと、先方に殴り込みをかけたくなるような気持ちになったり、日に日に自己肯定感を失ってしまったりするかもしれません。
転職活動は孤独なものですから、同じ志を立てて活動している人とコミュニケーションを図ることが難しい一面があります。
第二新卒・既卒など、一定の枠組みの中で転職活動をしているなら仲間意識も芽生えやすいでしょうが、40代ともなると転職の動機・希望年収などは様々です。
よって、不採用通知が届いた時のダメージを、似たような境遇の人と共有しにくい状況が生まれます。
同じ悩みを共有できない点は、求職者が転職をつらいと感じる大きな理由の一つに数えられるでしょう。
求人情報というのは水物であり、想定していた募集期限まで情報が掲載されているとは限りません。
ハローワーク・自社ホームページなど一部の媒体を除いて、基本的に企業はお金を払って求人サイトなどに情報を載せているため、良い人物が何らかの形で見つかれば、その段階で募集は打ち切られます。
良さそうな求人を見つけて、一生懸命になって会社研究に励んだとしても、その合間に採用が終わってしまうことは十分考えられます。
かといって、限られた時間の中で研究を行おうとすると、情報の分析がどうしても不足しがちです。
その結果、不十分な研究から不採用となったり、時間切れで応募できなかったりするわけですが、今後にどうつなげればよいのか、40代が似たような状況を経験した人のアドバイスを一人で集めるのは、なかなか難しいのが現実です。
そこで、多くの人はエージェントなどに頼り、良い案件を代わりに探してもらおうと考えます。
転職エージェントを活用することは大切ですが、世間で優良と評価されているエージェントが、必ずしも自分にとって優良であるとは限りません。
会社レベルで相性の悪さを感じることはなかったとしても、担当者・キャリアアドバイザーのレベルがピンキリというところは少なくありませんから、そこで壁を感じてしまうと関係改善は難しくなります。
本来、転職を成功させるにあたり、キャリアアドバイザーは良き相談相手のはずです。
しかし、中には言葉のキツい人・新米で求職者の希望を正しく汲み取れない人もいますから、運悪く当たってしまったら担当者を変えたいと思うかもしれません。
担当者の変更依頼自体は、転職エージェント側で受け付けてもらえるでしょうが、新しい担当者と信頼関係を築けるかどうかはまた別問題です。
紹介される案件を信用できなくなってしまったら、もはや同じ転職エージェントで活動を続けるのは厳しいでしょう。
40代の転職に際して特に重要なのは、家族が自分の活動に理解を示してくれているかどうかです。
特に、子どもがいると、収入の減少は将来を狭める要因の一つとなるため、難色を示される可能性があります。
現職で働き続けることを家族が期待している場合、家族が納得する働き方・職場を見つけて転職を成功させることは、とてもハードルの高い行為です。
なぜなら、転職先は社長も違えば上司も違うわけですから、現職と同じ条件・待遇・社風・職場環境を見つけることは、ほぼ不可能な話だからです。
家族が転職に否定的だと、もっとも自分の近くにいる存在から支持を受けられず、孤独に転職活動を進めることになります。
失敗を家族になじられるようなことがあれば、だんだんと自己嫌悪におちいってしまい、現職における勤務のモチベーションも下がることでしょう。
転職活動は、転職したら終了というわけではなく、むしろ新しい職場で働き始めてからが本番です。
ここで思うような働き方ができないと、次第に自分を追い詰めてしまうおそれがありますから、転職後に以下のような理由で悩んでいるなら、自分を見つめ直す時間を設けた方がよいでしょう。
企業が変われば人も変わります。
転職する場合、今まで当たり前だったことが、新しい職場では通用しないことも珍しくありません。
例えば、中小企業から大手企業・事業規模の大きな企業に転職した場合、組織構造の違いがギャップとなって自分を苦しめてしまうおそれがあります。
具体的には、周囲が絶えず自分を見ている・本音を隠しながら仕事をしているような環境に馴染めず、仕事に集中できないケースなどが考えられます。
そのような環境で、自分の案を積極的に発信しようとすると、おそらく「出る杭は打たれる」で活躍の場が設けられにくくなるでしょう。
前職で提案を強く求められていた人材であればあるほど、窮屈さを感じてしまうはずです。
諸々の理由から、社内の人と信頼関係を構築できないと、いつしか自分が一人ぼっちになったような感覚を覚え、その環境から逃げ出したくなってしまうかもしれません。
しかし、40代という年齢で転職してしまうと、なかなか転職間もない時期から退職を検討するのは難しく、状況は悪化する一方です。
採用方法を問わず、企業側から役職者になることを前提に採用された場合、周囲が必ずしも好感をもって自分を迎え入れてくれるとは限りません。
中には「本来なら私が役職者になるはずだった」という気持ちを抱えながら、仕事に取り組んでいる人もいるはずだからです。
そこで上司風を吹かせるようなことがあれば、もともと不満を抱いている人はもちろん、それ以外の社員にも悪い評判は伝播するでしょう。
一度社内での評価が下がってしまうと、それを挽回するのは大変ですから、当然ながら多くの転職者は周囲の厳しい目に耐えながら淡々と仕事をこなさなければなりません。
このような環境で、自分の現況を正しく理解して適切なアドバイスをくれるメンターを探すのは、転職以上に骨が折れる作業です。
孤独な管理職として、心がつぶされそうな毎日を送っているなら、まずはそんな状況を別の観点からとらえ直す必要があるかもしれません。
スムーズに転職のスケジュールが立てられる場合を除いて、転職活動は貯蓄額と相談しながら進める必要があります。
基本的に、退職後に入社手続きを行うため、タイミングによってはいったん無職になる可能性もあります。
仮に、十分な貯蓄がないまま転職活動をスタートさせ、内定が決まり退職した後で内定が取り消されるようなことがあった場合、そこから体制を立て直すのは大変です。
ショックもさることながら、当面は貯蓄を切り崩す生活を強いられる可能性がありますから、急ぎで転職先を決めなければなりません。
そうなると、あれこれ相談して決めている余裕などありませんから、その分だけ失敗の可能性は高くなります。
転職を検討する際は、万一のことを考えて、半年~1年は無収入で生活できるだけの貯蓄を用意しておきたいところです。
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周囲に相談しながら転職活動を進めて、見事希望の企業に転職したものの、いざ働き始めてみると、転職前と同じ不安を抱えているケースは意外と多いものです。
自己分析が主観的になってしまうと、どうしても企業や自分の悪い面から目をそらしがちですから、結果的に転職前と変わらない問題に悩まされてしまうおそれがあります。
そうなると、協力してくれた人の期待を裏切る結果につながりますから、相談しようにもバツが悪く、一人で悩む時間が増えていきます。
物事の考え方・とらえ方から再構築しなければ、同じ失敗を繰り返してしまうでしょう。
一度転職を済ませてしまうと、仮に失敗したことに気付いてしまっても、そこから次回の転職に向けたプランを練るのは簡単ではありません。
新しい職場で一定の年数を経るか、もしくはアピールできる実績を積むかしなければ、転職先自体が見つからない可能性が高いでしょう。
社会人経験に乏しい20代ならともかく、40代を過ぎてから軽率な決断はできません。
よって、転職から間もない時期で期待外れが起こっても、誰にも頼れず自力で解決するしかないのが現実です。
ここまでご紹介してきた通り、転職活動中・転職後の悩みを放置していると、以下のような問題が起こることが考えられます。
転職を成功させるためには、客観的な視点からの自己分析が必要不可欠です。
志望先に貢献できる要素・自分自身の興味の対象・具体的な実績と活用の方向性など、多面的な自己分析を試みることで、納得のいく転職が実現しやすくなります。
ところが、悩みというネガティブで自己本位な問題をそのままにしておくと、自己分析が次第に主観に流されていくおそれがあります。
自己分析を正しく行うためには、悩みと向き合えるメンタルを作る・すなわち「脳の仕組み」を理解して考えをまとめることが重要です。
続いては、脳科学者・中野信子さんの著書「悩みと上手につきあう脳科学の言葉」より、悩みと向き合うための脳科学的な考え方について、転職のケースを想定しながら抜粋してご紹介します。
日本人は、どちらかというと物事をクヨクヨ考えがちな傾向があるため、どうしてもネガティブな方向に考えを向けがちです。
転職活動に伴うつらさを自覚した時から、どうして転職しようと思ってしまったのか、どうしてこんな会社を選んでしまったのか、頭の中で自己嫌悪的な考えがグルグル巡ってしまう人が多いかもしれません。
しかし、その傾向は決して忌避するものではなく、中野さんはむしろそれを「学習のためのフィードバック」だと述べています。
人間は、自信がない状況の方が学習効率は良いので、自信がない時ほど様々なことを学んで身に付けるべき、というわけです。
また、自分が「嫌」だと感情的になっていることを「困ったこと」ととらえ直し、感情から離して改善・工夫のきっかけにつなげていくことが大切だとも述べています。
一つひとつの問題を、感情を介さずに処理する姿勢が、転職活動のつらさを和らげる第一歩と言えるでしょう。
日本人は、遺伝子レベルで意思決定が苦手な民族と言われており、中野さんによると「日本人には脳内で分泌されたドーパミンを分解する酵素の働きが強い人が多く、自らが決断することで生じる快感を得にくい」と説明されています。
つまり、日本人は意思決定にストレスを感じる場面が多いため、基本的には「誰かに決めて欲しい」人が多いと言えます。
それに加えて、脳をきちんと働かせるには、たくさんの酸素・栄養が必要です。
しかも、新しいことを始めようとすると、脳は余計なエネルギーを消耗しないためにブレーキをかけるようになっているので、その分だけ不安やおっくうさを感じやすくなります。
逆に言えば、悩む前に行動を起こすことによって、脳はその状態を維持しようとします。
指・手足・筋肉・目など、身体の抹消を動かして刺激を与えることにより、脳はその行為に楽しさを見出そうとするのです。
中野さんはこのような傾向について触れた上で「脳は、環境の変化に応じて生存戦略をすぐさま変えられる、不完全な臓器」だと述べています。
この傾向を活かして、悩む前に次の行動を起こすことが、転職活動に伴うつらさを軽減することにつながります。
個性が尊重される現代の日本において、平凡であることは時に「無能」に近い意味で解釈されることがあります。
しかし、仏教で中道が重んじられるように、平凡な性質もまた貴重なものです。
転職の際に、アピールポイントをひねり出そうとして悩むことは少なくありませんが、企業は「求められる役割・立場に即して、当たり前のことを当たり前にできる人」を求めています。
だからこそ、目立った成果にとらわれず、自分が現職・前職等で積み上げてきたものを、応募書類・面接の場で丁寧に伝える努力が必要です。
残念ながら社会には、出る杭を探して叩こうとしている人間が一定数存在します。
そのような中、平凡な・当たり前の意見が重宝されることも珍しくありませんから、よほど大きな実績・誇れる経歴を持っていない限りは、あえてエッジの利いた志望動機・自己PRを考えようとしない方が賢明です。
「脳の『前頭前野』を働かせる習慣を作ることができれば、無用に自分の性格などに悩むことはない」と、中野さんは述べています。
自ら情報を集め、自ら判断して、結論を出して、行動する。
そして、自らの行動に責任を持つ。
書籍の中では、このようなスタンスが前頭前野を働かせるために必要だと説明されており、前頭前野をきちんと働かせるには、脳の他の領域にエネルギーを使わないことが重要だとも述べられています。
脳がエネルギーを消費する原因は、ストレス・寝不足・時間制限など様々です。
そして、これらの原因が生じる理由は、主に日常生活の乱雑さだと中野さんは説明しています。
厳しい状況の中でも、意識して生活習慣・環境を整えることで、脳を少しでも楽にしてあげることが、転職の悩みに対処するための基礎体力作りに役立つことでしょう。
脳の性質を理解したところで、続いては具体的にどう努力すればよいのか、自己分析を例にとって考えてみましょう。
中野さんは、著書の中で「自分なりに他人からのフィードバックを受け止めて、進んでいける人が、結果的には早く学習できるのです」と述べています。
これを転職の現場に当てはめて考えると、自分の願望・失敗経験にとらわれず、あくまでも「自分が提供できるもの」をベースに市場の評価をチェックして、相応の待遇・条件の企業を選ぶべきだと言えるでしょう。
メンターやキャリアアドバイザーから意見をもらえるなら、その意見をしっかりと受け止め、次の活動に向けて計画を立てなければなりません。
ただ、厳しい意見にはどうしても感情が先に反応してしまうため、感情にフィルターをかけながら意見を取り入れたいところです。
中野さんは「努力をしても目標にたどり着けないときは、まず『努力の方法が間違っている』可能性を考える」ことをすすめています。
転職活動がうまくいかない・転職先で人間関係が構築できない状況が続いているなら、自分の性格や適性・アドバイスの表現に注目するのではなく、努力の方法が間違っている可能性を考えるとよいでしょう。
どんな努力によって、今回の結果が得られたのか。
努力に対するフィードバックはどのようなものだったのか。
今後はどうやって戦略を立てるべきか。
これから習得可能なスキルはあるのか。
これらすべてのことを考える際、得られた情報につき「事実以上の意味を考えない」よう意識すると、ある程度感情を抑えて思考することができます。
フィードバックを受ける時は、自分を責める・相手を責める意識で聞くのではなく、他人になったつもりで・一つの事実として話を聞くことで、不満は少なくなるはずです。
以上、40代が転職に関する悩みを相談できない理由と、悩みと向き合うための脳科学的な考え方についてお伝えしてきました。
脳のメカニズムを知ることで、どうすれば悩まずに行動できるか・フィードバックを実のあるものにできるかが、おぼろげながらイメージできたのではないでしょうか。
悩みが生まれる根本は、自分の脳のとらえ方にあるものと理解して、自分が認知している世界を少しずつ変えていく努力が大切です。
もし、より具体的な自己分析の方法を知りたいなら、こちらの記事も参考にして欲しいと思います。
悩みは「脳」から生まれる。
このことを頭に入れて、脳とうまく付き合いながら、余裕を持って転職活動に臨みたいものですね。