定年間近の50代を迎えると、どうしても副業・起業・これからのキャリアやライフプランなどを考える時間が増えてしまい、考えがまとまらず悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
自分なりに努力していても結果につながらず、やがて考えることさえ面倒になってしまうケースも珍しくありませんが、それは必ずしも年齢に起因する問題とは言い切れません。
かつて、企業戦士・社畜などと揶揄されるほどに肉体・精神を酷使してきた日本人は、働き手が個々の事情に応じて働き方を選べるようにする「働き方改革」の号令のもと、頑張らない働き方を模索し始めています。
しかし、労働時間そのものは短縮されても、将来の不安からパソコンやスマホを使う時間が長くなり、帰宅してからも心や頭が休まらず、脳の疲れからやがて精神的に追い詰められる人は少なくありません。
このような現代ならではの疲労を生んでいる一因として、プライベートも含めた「脳のマルチタスク化」があげられます。
気になったことをGoogleなどで検索する・SNSで老後の話題をチェックするなど、起きている間ずっと何らかの情報を頭に入れ続けている状況は、実質的にマルチタスクを休まず続けているのと同じであり、脳をどんどん疲弊させていくのです。
日々情報を仕入れ続け、疲れている脳を癒すには、何も考えない時間を意識して作ることが大切です。
その方法の一つが「マインドフルネス」と呼ばれる、呼吸法などを用いた瞑想です。
マインドフルネスは、ビジネスエリートが実践している方法としても知られており、職業や立場・年齢を問わず取り入れたい習慣の一つです。
人生の中で様々な評価・判断をする機会に遭遇してきた人ほど、意識して取り組む価値があるものです。
この記事では、50代を迎えたビジネスパーソンに向けて、仕事・プライベートともに「意識して」頑張らないようにすることの効能や、脳の疲れを取るためのマインドフルネスの方法などをご紹介します。
自分の年齢を一つの壁と感じている人は、ぜひ一度目を通して欲しいと思います。
日本人の代表的なメンタリティの一つ「頑張る」は、人を感動させる一方で、時に呪いのように自分の人生を重苦しいものにします。
誰かを応援する際に「頑張れ!」と相手を思ってかけた言葉が、かえって当人のあきらめる勇気を削いでしまうこともあります。
現代人の中には、そういった「頑張る」という言葉の本質を理解している人も増えてきており、あえて「頑張らない」ことを意識した生き方を模索する動きもあります。
かつて岩手県が製作した新聞広告「がんばらない宣言」は、経済効率重視の価値観転換という意味で、多くの人の心をつかみました。
シチュエーションによって受け取り方が異なる言葉の「頑張る」ですが、辞書で意味を調べると「困難にめげないで我慢してやり抜く 」とあります。
こういった姿勢は、もちろん人生において大切なことの一つではありますが、その結果体調を崩し、最終的に人生の終わりを早めてしまっても、誰も責任をとってくれません。
頑張ること自体は悪いことではないものの、それが自分の負担となってしまうと、後々の人生に大きく影響を及ぼします。
特に、人生の中で「誰かから評価される」ことに重きを置いていると、いつの間にか自分の人生・自分らしさからかけ離れた生き方にシフトしてしまいます。
年収1,000万円を実現する・営業目標を達成する・マイホームを買うなど、一見自分で決めたような目標でも、例えばビジネス誌・副業系SNSの情報に影響された結果そうなったという人は、意外と多いのではないでしょうか。
周囲からもたらされる情報でコーティングされた未来は、誰もが憧れる未来である反面、何の個性もない画一的な生き方の一つに過ぎません。
それが本当に自分のやりたいことだったなら文句はないでしょうが、仮に「誰かから良く思われたい」・「周囲から評価されたい」という気持ちから今まで努力していたのなら、集めるべき情報・手に入れるべき成果は今後も無限に発生するでしょう。
誰かの期待に応えるだけの人生は、決して自分を満足させることはありません。
一方で、頑張るという言葉には「自分の考え・意志をどこまでも通そうとする 」という意味もあります。
同じように頑張るなら、苦手意識のあることに向き合って頑張るよりも、自分が得意と思えること・楽しいと思えることを選んで頑張った方が、自分の中で「頑張っている」という意識を持たずに取り組めるのではないでしょうか。
もちろん、すぐに仕事を辞めて転職を考えたり、趣味を探したりするのはリスクが大きい話です。
まずは、周囲の意見や情報でがんじがらめになっている、自分の頭の中を整理するのが先決です。
日本人は、道徳のような「誰かのために生きる」というメンタリティが一般化していて、それゆえに脳内での仕事とプライベートの切り替えが下手な傾向があり、脳内の情報過多を引き起こしてしまう一因となっています。
明日に疲労を残さず、脳の疲れや身体の疲れを解消するためには、身をしっかりと休めなければならないのですが、人間の身体や脳は睡眠中も何らかの形で活動しており、特に脳は意識して休ませなければ働き続ける性質があります。
50代を迎えると、職場・家庭内での責任も大きくなり、仕入れなければならない情報の数も増えます。
また、一昔前なら新聞で得られた情報を整理するだけである程度カバーできていたものが、現代では新聞以外にも有益な情報を得られるツールが増えたため、様々な分野にアンテナを張る必要が出てきました。
放っておくと、どんどん頭の中が整理できないまま、脳を休められないまま日々が過ぎていってしまいます。
そこで、日々の生活に取り入れたいのが、頭を思考のループから解放する「マインドフルネス」の習慣です。
マインドフルネスはしばしば瞑想と同一視され、禅宗と同様の坐禅を組まなければならないと考えている人も多いのですが、実際には椅子に座ったり身体を動かしたりして行います。
以下に、基本的な呼吸方法やバリエーション についてご紹介します。
マインドフルネスにおける基本的な呼吸法・姿勢
① 基本姿勢
・椅子に座る。背筋は軽く伸ばし、背中を背もたれに付けない
・お腹に力は入れず、両手を太ももの上に乗せ、脚を組まずに座る。
・基本的に目は閉じる。もし開ける場合は、意識して2m先の空中に目を向ける。
② 意識を向ける部位
・身体の感覚を意識する。具体的には、自分の身体のどの部分が椅子や床に接触しているのか、あるいは身体の一部分と触れ合っているのかを意識する。
※(分かりやすいのは、足の裏が床に触れている感覚、お尻が椅子のクッション部分に触れている感覚など)
・できれば、身体が重力に引っ張られる感覚をつかみたい。
③ 呼吸を自然な感覚でとらえる
・呼吸している時の身体の状態を意識する。鼻から吸って吐く息、胸やお腹の動きなど。
・呼吸のタイミングや長さを統一しなくてもよい。あくまでも自然に呼吸する。
・慣れないうちは、呼吸の回数を数えて意識する。
④ 考えやイメージ(雑念)が頭に思い浮かんだ時は
・考えや自分を否定して呼吸を止めない。
・頭に何かが思い浮かんだ段階で、それを受け入れつつ意識を呼吸に戻す。
・要するに「放っておく」ことが肝心。
引用元:「心が疲れたとき」に試してほしい。マインドフルネスとは?「世界のエリートがやっている 最高の休息法」著者に聞く
もし、目を閉じて呼吸に集中する方法が難しいと感じたら、ムーブメント瞑想という方法もあります。
身体を動かしながら、身体のパーツを意識する方法なので、アクティブな人におすすめです。
ムーブメント瞑想
① 歩きながら瞑想
・ゆっくりと歩く。ただスピードの制限はない
・手や足の筋肉、関節、地面との接触などに意識を向ける
・動作に言葉をつける。
※(右足を出したら「右」、足を上げたら「上げる」など。)
② 立位で瞑想
・立つときに足は肩幅に開き、両手を伸びた状態からゆっくり上にあげていく。
・腕の筋肉、血流に意識を向けて、重力を感じる。
・両手をあげ切ったら、次は下に手をおろしながら、腕の筋肉、血流に意識を向ける。
・上記を繰り返す。
③ 座位で瞑想
・椅子に座り、両肩を後ろから前にゆっくりと回す。
※(この動きだけでも肩をほぐすのに有効なので、オフィスワーカーは特におすすめ)
・筋肉、関節の動きや感覚を意識する。
・回し切ったら、今度は前から後ろに両肩を回し、同じように感覚を意識する。
・上記を繰り返す。
④ 日常の動きで瞑想
・着衣時、洗顔時など、普段のルーティン時に行為への意識を向ける。
・自転車、自動車などの運転中に各部位の感覚を意識する。
※(運転をおろそかにしないこと)
・ラジオ体操を通して身体の感覚を意識する。
引用元:「心が疲れたとき」に試してほしい。マインドフルネスとは?「世界のエリートがやっている 最高の休息法」著者に聞く
頑張らない心構えと脳のリフレッシュができたら、今度は具体的に「頑張らない仕組み」を作ることを意識しましょう。
この記事の中でお伝えする頑張らない仕組みとは、精神的なフレームワークに近いもので、日々の行動を習慣化して無意識に行うための一連の流れを意味します。
一例として、2015年のラグビーW杯で圧倒的なキックの成功率を誇った五郎丸歩選手 は、キックの成功率を高めるために「ルーティン」を取り入れていました。
多くの観客はその独特な手の組み方・印の結び方を「五郎丸ポーズ」と呼んでいますが、実は印を結ぶことだけがルーティンの全容ではなく、以下のような特殊な流れがすべてルーティンに含まれます。
・蹴る位置にしゃがみ、ゴールポストを見て、ボールを2回回してからセット。
・立ち上がり、後ろに3歩下がり、左に2歩動く(ボールの位置に対し、ゴールポストへの直線から左45度の角度で入っていける位置に立つ)。
・右腕をひじまで脇につけ、手のひらを前に押し出すように腕を振る。
・身体の前で手を組む(これがいわゆる「五郎丸ポーズ」)。
・8歩の助走で蹴る。
※(いつでも、どんなケースでもゴールに向けてキックをする前にはこれらの動作を、同じ順番でする。②・⑤の歩数も変えてはならない。)
※出典元:ラグビー・五郎丸選手の集中力を育てた「ルーティン」の秘密 / ニュースイッチ
これは、一見キックがゴールに入ることを目的としているようで、実はそこに目的があるわけではありません。
あくまでも五郎丸選手は、ルーティンを正しく行えるかどうかだけに集中しており、それが結果としてゴールの再現性につながっているのです。
この考え方は、私たち一般人が何かに臨む際にも取り入れられるものです。
先に結果ありきで様々なことを考えてしまうと、人はどうしても気後れしてしまい、先に進むことができません。
そこで、行動に伴う結果に意識を向けるのではなく、行動そのものをトリガーにしてルーティンを確立していくと、次第にその流れが当たり前になっていきます。
やがて、一連の流れを進めることに疑問を感じることなく、当たり前にルーティンを進められるようになります。
例えば、これから休日にクレヨン画を始めようと思っているなら、最初はクレヨンをテーブルに置くことから始めて、次は画用紙を置く、その次は鉛筆を置くなど、日に日にルーティンを増やして心身をなじませていきます。
ブログを書こうと思うなら、朝一番に近所のカフェ・特定の席に座ってコーヒーを頼み、ノートパソコンの電源を入れた後にメモ帳を開くといった流れをルーティン化してもよいでしょう。
遠くの結果ではなく、近くの単純な動作をルーティン化することからスタートすると、作業に進むまでの心理的障壁が少なくなって、やりたいこと・やるべきことに着手しやすくなるはずです。
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頑張ることに重きを置いてきた日本社会は次第に限界を迎え、人々は頑張らない方向へと舵を切り始めています。
今までの価値観に別れを告げ、気軽に様々なことに挑戦する姿勢を持てるかどうかが、50代以降の人生を有意義にすることにつながります。
まずは、マインドフルネスに至るルーティンを習慣化して、自分の脳の疲れを休める習慣を作ることからスタートしましょう。
小さなハードルをコツコツとクリアすることで、やがて大きなことに挑戦できる基礎体力がつくはずです。
頑張り続けることは、長い目で見ると心身を疲弊させるおそれがあります。
戦士の休息ではありませんが、時には休む勇気を持つことが、人生の充実度を高めてくれるはずです。
参考文献:世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる