2020年12月28日、サンコーインダストリー株式会社で勤続64年の90歳「玉置泰子」さんが、世界最高齢の総務社員としてギネス世界記録™に認定されました。
少子高齢化が進む日本において、会社で働ける年齢には上限がないことを玉置さんは身をもって示し、定年を迎えようとする人のみならず多くのビジネスパーソンに希望を与えています。
一方で、役職者には一般的な定年とは異なる「役職定年」という制度があります。
外資系企業では基本的に定年という概念そのものが希薄ですが、日系企業の役職者の中には、定年前の段階で収入が減少し、肩書が変わる可能性のある人が一定数存在しています。
制度について詳しく知らないままその日を迎えると、年収のギャップ・周囲の評価の変化などに悩まされるかもしれません。
「いつまでも働けること」と、「いつまでも同じポジションで働けること」は、当事者にとって意味合いがまったく違います。
役職名を失い、給与が減って、ランチが外食から弁当に切り替わるなど、つらい時間を会社で過ごす人も出てくるでしょう。
もちろん、役職とは無縁の職場で自分の能力を十分に発揮できていたのなら、誰に気兼ねすることなく仕事を全うできるはずです。
しかし、少なからず肩書が自分のキャリア・人格に影響を及ぼしていた人は、心の拠り所を失ってしまうかもしれません。
残念ながら、役職定年制を導入している企業において、ほとんどの役職者は役職定年を避けられません。
だからこそ、現在の立場にとらわれないキャリア・将来設計について考えを巡らす必要があります。
この記事では、役職定年の概要・役職定年に伴う将来の不安要素を解説した上で、該当者が未来を前向きに生きるために必要な考え方についてご紹介します。
役職定年とは、一定の年齢を迎えた管理職が役職から外れて、一般職・専門職という形で働くようになる制度のことです。
年齢は多くの企業で55歳・もしくは57歳が該当します。
役職定年制度の対象者は、制度の適用後に役職手当がカットされるため、ほとんどの場合は収入が減少します。
人事院の資料「民間企業における役職定年制・役職任期制の実態」によると、課長級の社員が役職定年後に得られる給与は全体的に減少傾向にあり、役職定年前の75~99%の層が78.2%・50~74%の層が20.4%という調査結果が出ています。
仮に役職定年後の年収が定年前の75%という人がいた場合、役職定年を迎える前の年収が600万円だったら、役職定年後は25%減の450万円にまで減少していることになります。
制度の対象者からすると、働く上でのモチベーションを下げるデメリットしかないように思えますが、会社全体で見ると人件費の抑制・高齢化防止・組織の新陳代謝・ポスト不足の解消など、複数のメリットがあります。
役職者として働いている立場なら、こういった組織全体の課題を見通す目を備えていて当然ですから、役職定年の制度に肯定的な考えを持っていてもおかしくはありません。
しかし、第三者的に自分の立場を捉えられる人ばかりではなく、役職者の中には制度自体に納得していない人も多いのが現状です。
かつての部下に厳しい対応を取った人は、役職定年を機にしっぺ返しを食らうこともあるため、会社生活の最後の段階になって苦汁をなめるケースも少なくありません。
確かに、自分の積み重ねてきたキャリアに何の落ち度もないのに、年齢だけで役職を奪うというのは、理不尽な制度と言わざるを得ません。
一方で、会社全体の負担について考えると、給与が高く定年までの残り時間が刻々と迫っている社員と、やる気に満ちた新進気鋭の若手社員とを比較した時、会社としてどちらによりコストをかけたいかは明白です。
役職定年を控えている人は、早い段階でこのような現実を理解して、その後のライフプランを組み立てる必要があります。
関連記事:役職定年制度の廃止・退職金に関係なく、つらい環境で働くであろう50代の特徴
そもそも、役職定年制度が生まれたのは、定年年齢の延長が背景にあります。
1980年代前半まで、定年は55歳と定められていましたが、1986年の法改正により60歳定年が努力義務となりました。
1998年で60歳定年・2013年には65歳までの継続雇用が義務化されます。
さらに厚生労働省は、2021年から労働者の希望があれば最長70歳まで就業機会を与えることを、企業の努力目標としました。
このように定年退職年齢が延びているのは、日本人の寿命が延び、少子高齢化の影響が著しいことが一因です。
定年退職の年齢を引き上げることで、国は年金や保険の負担を減らし、その結果として企業側に人的コストのしわ寄せが来る形となりました。
55歳定年を想定していた企業側としては、年収の高い社員をあと5年も延長して雇用するのは難しいというのが本音です。
そこで、雇用は続けつつも年収は減らすための策として、役職定年という制度が生まれたのです。
また、65歳定年制に移り変わろうとしている日本社会の中で、役職定年制度は未だ55歳を基準として運用されているため、今後何らかの形で制度自体が変更されるような状況も十分考えられます。
高齢になっても何とか会社に「しがみつこう」とするような考え方の人は、真っ先にふるいにかけられた上で、過去のキャリアが無視された低賃金・低待遇で働かされる可能性もあるのです。
自分にとって不利な環境で働かないためには、できるだけ在職中に自分の居場所を作るための努力を継続することが肝心です。
単純な上司・部下の関係性の中で話をするのではなく、お互い一人の人間として尊重し合える仲間意識ができていれば、役職を離れた後も関係が続きますし、新しい上司となった元部下から仕事を任されることも十分あり得ます。
現在50歳を迎えようとしている人であれば、役職定年まで最低でもあと5年はかかります。
その間に、部署の垣根を取り払って新しい人間関係を構築したり、現在の部署にいる社員と積極的にコミュニケーションをとったりして、今後も「会社にとって自分が必要な人材である(人材になれる)」と周囲にアピールしたいところです。
原則として「実力が評価される」ことでポストが生まれる外資系企業とは違い、日系企業では「周囲が自分をどう思っているか」が少なからず評価に反映される傾向にあるため、役職定年後の会社生活をどうやって充実させるのか、綿密にイメージすることが大切です。
あるいは、早期退職を想定したライフプランを構築するのも一手です。
健康保険料・年金などの自己負担額が増えてしまうデメリットもありますが、退職後にやりたいことがある・自由な時間が欲しいと考えている人なら、家族に丁寧に説明した上で会社を離れる選択をしてもよいでしょう。
いずれにせよ、自分や家族が路頭に迷わない範囲で、後悔のない決断を心がけたいものです。
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理想的なのは、冒頭でお伝えした玉置さんのように、キャリア・スキルを認められて会社の「生き字引的存在」として尊敬されることです。
しかし、誰もが同じように役職定年後も仕事を続けられるとは限りませんし、年収減は特別なスキル・実績がない限りは避けられません。
もし、どうしても会社生活の中で状況を改善できる見込みがない場合は、会社に依存しない・会社からの給与に期待しない生き方を模索することを考えましょう。
少しでも預貯金があるなら、これからもらう給与(お金)に「働いてもらう」ことを考えると、将来の蓄えを増やすことにつながります。
投資初心者がチャレンジするなら、給与のうち貯蓄していた分を積立投資に回し、最初のうちはつみたてNISAのようなハードルの低いものから始めてみましょう。
長期投資を想定して一定額を積み立てれば、一時的に元本割れが起こったとしても、20年保有して2~8%の成果が出るという金融庁の算出結果もあります。
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投資にはどうしても抵抗がある人・投資に回せるお金の余裕がない人は、必要な収入を自分で作るために力を注いでもよいでしょう。
スキルマーケット・クラウドソーシングなどを利用して、低リスクのものから試し、その後副業が軌道に乗れば、収入がそのまま自分のものになります。
おすすめのクラウドサービスの大手2社を紹介します。様々な形で色々なスキルが売られているのが確認できます。どんなサービスが売り出されているのか興味のある方はぜひ参照ください。
注意点として、会社で培った営業ノウハウ・専門知識などを商品として提供する場合、機密情報の漏えいにつながらないよう細心の注意を払う必要があります。
万一漏えいが露見した時は、最悪の場合、損害賠償請求につながるおそれもあります。
まずは個人的な趣味・特技の延長から商品設計を始め、その上で本業に支障のない範囲で商品構成を考えることが大切です。
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管理職が一定の年齢に達してしまった時、役職定年は会社人生の中で避けられない問題の一つです。
役職が失われると、その分だけ得られる収入も減少することから、役職定年後の豊かな暮らしのためには事前に何らかの解決策を講じる必要があります。
解決策を見出す方向性は、大別すると、社内環境を自分にとって有利な方向へと改善するか、自力で収入を確保するかの2通りに分かれます。
どちらが向いているかは、自分自身が培ってきたスキル・仕事に向き合うスタンス・他の社員とのコミュニケーションで築いた信頼関係の度合いなどに左右されます。
いずれの方法を選ぶにせよ、今後確実に訪れる年収面での不安・会社生活のつらさから解放されたいなら、将来の自分のためにできるだけ早い段階から行動を起こすのが吉です。
無理のない範囲で、少しずつ、未来に向けて努力を積み立てましょう。
会社の仕事・評価が人生のすべてではありません。
新たな道を探り「会社を離れた自分」を評価してくれる相手が見つかれば、生涯の自信となるでしょう。
参考: